娘は巨人の停めた荷台の上で身体を起こし、話し始める。

「え?? え〜とね……王子様の“おあいて”、うまくできなかったの。それでね、出て行けって、言われちゃった……。だからね、弟の王子様がいるんじゃないかと思って、あたしは森に行ったの」

「なぜ森に!? あの森は危ないとあれほど……!! 」

 族長は強い口調ではあったが、よほど心配をしているようだ。

「だからね、弟の王子様が迷って帰ってこないんだったら、王子様たち、悲しいでしょう?? 探してあげたかったの……王子様、すごく悲しそうだったから……」

「……。」

 彼は何も言えず黙ったまま。
 そしてそばに当本人がいるとも知らず、娘を囲んでの会話が続いた。

「無理シナイ、ゼラ……」

「そうだゼラ、なぜまずワシたちに相談しに帰らなかったんだ! 何も無く城を出られたというのに、もしお前に何かあったら……それに、王子様がそんなに弟君を探して傷心しておられたとは……」

 弟がたまにこっそりと人間界から魔界に帰ってきていた事も、人間になると言ってここを去ったことも、全て内密。

 そのため下々の者たちは、弟王子は現在失踪中で城にはいない、という事しか知られていない。
 彼らからすれば、“兄王子が弟が見つからず乱心し、心の埋め合わせのために娘を差し出せと言った”と思っているのだ。