彼はガラガラという音とともに上下の振動を感じ、目を覚ます。

「ん……」

 気付けば隣には眠っている鬼娘。
 そして自分も揃って、何かの荷台に乗せられている。

 彼の声に気づき振り返った相手を見てみれば、それは一つ目の屈強な体の巨人。
 彼と娘を載せた荷台を牽いていた。

「……サイクロプス!! 貴様、まさか我らを喰らおうなどと……」

 サイクロプスは魔族とは少々訳が違い、屈強で野蛮な面があるとされている一族だった。

 彼は体力を振り絞り、急ぎ剣を抜く。
 しかし、

「ワカラナイ」

「……は? 」

 荷台を牽く巨人が穏やかな口調でそう発した為、彼は思わず剣を少し引いた。

「ゼラ、俺、喰ワナイ。オ前モ、喰ワナイ」

 巨人は一つ目を細め、牙を見せて穏やかに笑う。

「……“ゼラ”? この娘のことか? 」

 彼は今まで娘の名を聞いていなかったことに気付く。
 巨人は穏やかに続けた。

「ゼラ、好キ。良イ奴。森、危ナイ、帰ス」

「……敵意はないようだな。お前はこの娘の仲間なのか?」

「着ク。見ル」

 巨人は彼の問いかけには答えず、またのんびりと彼にそう促す。
 剣を収め前を見ると、目の前にはすでに田舎らしいのどかな農村が広がっていた。

 彼は気付き、急いで巨人に向かって声を掛ける。

「おい、私は帰る……! 降ろせ!! 」

 しかし足はフラつき、荷台から飛び立つこともできない。