魔族の第一王子、『ラインデンド』。
 ある日彼の唯一の肉親である弟が、人間になると言い切り城を出て行った。

 彼は弟を人間界から連れ戻すのに失敗し、かなり怒りを募らせている。

「奴め、ぬけぬけと…⋯あんな人間の小娘なんかと!! 自分も人間として、だと!? 」

 様子を見に人間界に行ってみれば、弟はあろうことか人間の娘と呑気に暮らしていた。
 そしてその時初めて見た必死な弟の表情に何も言えなくなってしまい、そのまま帰ってきてしまったのだ。

 魔力も他の能力も自分よりずっと下の、何も出来ないと見下していた弟。何をさせてもヘラヘラと笑いながら、雑用を懸命にこなしていた弟。

 そんな弟が、ここではない『自分の居場所』をいつの間にか見つけていたことが悔しかった。

 自分は次期王。
 魔力はこの国の誰よりも強い。亡くなった両親、もとい国王、王妃よりも強いかもしれない。
 それなのに失踪した弟すら連れ戻せなかったとは。

 この失態を誰にも言えるはずもなく、“弟王子は失踪し姿をくらました”とだけ魔界中に噂が広まった。