フード・デスゲーム


それは放課後のことだった。


「…やっぱ、虫食わせたのはやり過ぎたか?」


そんな声が聞こえて、僕はドアの陰に身を隠した。

覗き見た教室には、クラス内で有名ないじめっ子である数人の男女が輪になって話している。


「これで自殺とかされててさ、遺書とか書かれてたらヤバくね?ウチら」


「自殺したい人募集ってアカウントからメッセ来て、冗談であいつの名前書いたんだけど…関係ある?」


「ねーだろそんなのー、大丈夫だって!自殺なんてあの眼鏡にそんな度胸ねぇだろうし?」


会話の内容から察するに、高田君のことを言っているらしい。

僕は息を飲んだ。

アイツらにいじめられていた高田君は、一週間前から学校に来ていなくて、ウワサによると家にも帰っていないという。

あの真面目な高田君が、だ。

そんなのあり得ないと僕は思う。

彼と僕は親しい間柄ではなかったけど…それでも彼が優しくて、強い心を持っていると知っている。

高田君がいなくなる数日前、僕らは偶然にも話したことがあった。

それも放課後の図書室だった。


___そこ、間違えてますよ。


受験勉強をしていた僕のノートを指差して、高田君がそう言った。

僕は酷く驚いていたっけ。

なんていうか…この学校で、高田君を知らない人はいなかったと思う。

彼は、有名なエリート一家の子供なのに、滑り止めのこの学校に来た可哀想な男子生徒として笑われていた。

それをきっかけに“鼻につくから”なんて理由でいじめられているのも、同じクラスだから当然知っていたし、その現場も、何度も目撃していた。

彼と接したら、自分もいじめられるかも。

そんな思いから、僕も皆と同じように高田君へのいじめを見て見ぬふりをしていた。

…恥ずかしいことを、そして酷いことをしていたと、自分でも思う。

でも、怖くて一歩が踏み出せなかった。

そんなときだ、彼と話したのは。


___ここは、こう解くんです。


___そうですね、ここはこうして……。


___そう…そう覚えると簡単ですよ。


そう言って丁寧に間違いを教えてくれた。

あのとき、ありがとうの言葉を言う前に高田君は立ち去ってしまったけど……。

ずっと感謝していた。

勉強が出来なくて、物覚えの悪い僕が今でも彼の教えてくれた方程式だけは覚えている。

………。

今の僕に出来ることは、なんだろう。

強く唇を噛む。

考えて、一つの結論を出した。

それは、今までずっとできなかったこと。

足音を立てないようにその場から去り、職員室へ向かう。

まだ残っていた担任を見つけて、口を開いた。


「高田君のいじめについて、話があります」


彼が消えた、一番の原因かもしれない事実。

……これで明日から、いじめの標的は僕になるかもしれないな。

それでも、いいか。

だって今まで、散々無視をしてきたんだ。

遅くなったけど、彼のために僕ができることは、これしか考えつかなかった。

僕は小さく深呼吸をする。

ああ、そうだ。

次に高田君と会えたら、謝罪と…それと。

あのときの、お礼を言いたいな。