フード・デスゲーム



『始まりました~ゆぎひろチャンネル!ってことで俺がゆぎひろでーす!よろしくー!』


暗い部屋の中、一人でスマホを持ち、あの子の動画を見ていた。

外はすっかり明るいけれど、カーテンは閉じられている。

そろそろゴミも出しに行かなきゃいけない。

だけど、この頃よく眠れないせいか、体が重くて中々腰を上げられない。


「…今日で一週間なの…?」


あの子が突然いなくなってから、もうそんなに経ってしまった。

私の一人息子。

血の繋がりがない、再婚相手の息子だったあの子は…私にとってかけがえのない宝物だった。

あの子は私を、どう思っていたかしら。

きっと良く思ってはいなかったでしょうね。

あの子のためにと色々なことに口を出しては、喧嘩ばかりだったもの。

学校も遠ざけて、友達もきっといなかったあの子。

きっと私との毎日も、息苦しかったはず。


『今日はドンキで買ってきたヘンテコグッズを集めてみましたー!…うわ、やべっジュースこぼれた最悪なんだけど!』


画面の向こうでくるくると表情を変えるあの子に私は小さく笑みを浮かべた。

こうして動画を見るのは初めて。

そういえば……。

動画撮影をしている間は本当に楽しげな声が家中に響いていたと、今になって思い出す。

カサついた指で、そっと画面に触れた。

そして、震える声で呟く。


「ひろ…あなたは…今、どこにいるの…?」


『それじゃ、今回はここで終わり!次はなにするか決めてないから、リクエストすんならコメント欄によろしくなー!んじゃ、バイバイー!』


最新の動画が終わり、再生が止まる。

これが、あの子の…ひろの出した最後の動画だった。

私はここにひろの居場所のヒントがあるのでは、とすがる思いでコメント欄を開く。

警察に行っても“家出の可能性が高い”としか言ってくれず、まともに捜査もしてくれない。

自分で探すしかないと、ここ数日は写真を持って道行く人にかたっぱしから尋ねて回った。

だけど、何の成果も得られない。

だけどここなら、もしかしたら。

届いているコメントは全部で七つ。

その一つ一つにじっくり目を通した。


『次も楽しみにしてます(^-^)』


『つまらん動画みせんな』


『大食いやってみて!』


『うーん、ルームツアーとか?』


『最近変なメール来たからこのチャンネルのURL送ったった~何か反応あったら動画回して~』


『声が良いから囁きASMRとか笑!』


六つめまで見て、深いため息を吐く。

残念だけど…手がかりはなさそうだ。

スマホに表示された時刻を見た。

…少しだけ睡眠を取ってから、また外に探しに行こう。

そう思って指を動かし、最後のコメントを見た。


「…これは……?」


そこには、ただ一言こう書かれている。


『約束、守ったよ』


コメントした相手の名前は「あなたの友達より」。


私のクマだらけの目から、涙が流れる。

何も心配しなくて良かったんじゃない。

あれこれ言って喧嘩しなくて良かったんじゃない。


「…ちゃんとお友達がいたのね…」


そう呟いて、瞳を閉じて。

それから私は睡魔に身を委ねた。

夢の中で、あの子が私を「母さん」と呼んで笑っている。

そんな気がして、また泣いていた。