「なぁ聞いた?長峰キャプテンのこと」
「知ってる、行方不明だって?」
“長峰キャプテン”。
その言葉に俺は聴き耳を立てた。
サッカー部の部室内に設置された長椅子。
その上に座りスマホをいじるフリをしながら、ロッカー前で立ち話をする一年生の言葉を聞く。
「もう一週間経つってマジ?家出?事件?」
「家出だろ。あの人キャプテンになってから色々あったじゃん?精神的に病んだんじゃね?」
「まだ和解できてない先輩もいたもんな…俺は長峰キャプテンのこと、わりと好きだったんだけど」
「嘘つけ、暑苦しいって言ってたクセに」
クスクスと笑い声が聞こえて、眉をひそめる。
指先で暗いままの画面をタップ。
このまま次の練習時間まで時間を潰そうかと思っていたけど、ある言葉にそうもいかなくなった。
「つーかあの人、もう帰ってこなくてよくね?」
「だよな、俺とか“嫌いな人の名前教えて”なんて迷惑メールにあの人の名前送っちゃったし、帰ってこられても合わす顔ねぇや」
「ははっ、何それヤバくねー?」
冗談交じりに放たれた悪意の言葉。
俺は我慢できずに口を開いてしまった。
「お前ら勝手なこと言ってんなよ。長峰のことを、何も知らないくせに」
「…は、え…先輩?」
長峰がキャプテンに選ばれてから、気まずくなって言えなかったけど。
俺は一年のころ、長峰の友達だった。
先輩達の目が気になって話せなかった時期も、一人ぼっちで頑張っていたあいつの、数えきれない努力を知っている。
最近でいえば、あいつは部員全員に話しかけることを意識していた。
___また、自主練つき合ってくれな!
そう言われたとき、咄嗟のことで、ぎこちない返事しか返せなかったけれど。
…あのときに頷いて、手を差し伸べることができていれば…何か変わっていただろうか。
あいつが…長峰が行方不明になってから、俺はずっと後悔していた。
ドンッ、と自分のロッカーを強く蹴りつける。
ビクリと一年達が肩を震わせた。
「あいつは…長峰キャプテンは絶対帰ってくる。お前らもふざけたことしてないで、練習しっかりしとけよ」
まばらに返ってきた、やる気の無い返事を聞き流す。
そのまま部室を出て、グラウンドに出た。
“長峰のことを、何もしらないくせに”。
自分で言った言葉を思い出して奥歯を噛み締めた。
「…誰がどのツラ下げて、何言ってるんだろうな…」
ごめんな、長峰。
俺もお前のこと、何も知らないくせにな。
お前が孤独で苦しいときに、何もできなかった。
本当にごめん。
次に会ったらそのときこそ。
そのときこそ、ちゃんと謝るから。
だから___。
「…早く、帰ってこいよ」
呟いた言葉は風に吹かれて消えていった。



