「もう、お母さん!なんで起こしてくれないの!」


朝、洗面所の鏡の前。
ヘアアイロンで髪を伸ばしながら抗議の声をあげる。

こんな大遅刻、小学校でもしなかったのに。

無情にも進んでいく時計の針を恨めしく睨みつけながら、学校へ行くための支度を整えていく。

制服に袖を通し、鞄を持ち、ドタバタと大きな足音で階段を下りた。


「行ってきまーす!!」


リビングにいた母に一声かけて玄関へ向かい、靴を履く。

ドアノブに手をかけたとき、お母さんがリビングから顔をのぞかせた。


「ちょっと(あや)、朝ご飯は?」


「そんな時間ないって!」


ドアを開けて通学路をひた走る。

いつもなら学生もサラリーマンも見かける道だけど、九時も近い時間だからか人通りはまばらだ。


「あの道からならもう少し早く着くかも…!」


それは普段なら使わない近道。

狭い路地裏を進み、道路が見えてきたとき。

目の前に黒い車が止まった。