ホワイトティーのバスボムは、お湯の色は乳白色で、爽やかな香りの中に優しいお花の匂いがした。
向かい合うかっこうでゆったり湯船に浸かりながら、なんとなく明日の話をする。
「どんなのがいいとか、何か思いついた? ノープランでも焦ることはないし大丈夫だけど」
こういうところ、優しいなあって思う。
「なっちゃんがお店のHPでいろんなデザインが見られるよって教えてくれたので」
“なっちゃん”は彼が“夏姉”と呼ぶ、彼のお姉さんのこと。
ちなみに、なっちゃんは私のことを“チーちゃん”と呼び、弟である彼を“アキ君”と呼ぶ。
「毎日つけていたいので、シンプルなものがいいとは思っていて」
「なるほど」
「なんとなく素敵だなあと思うデザインがいくつかあったので、それを参考にご相談できればと」
「絶対に明日決めなくてはいけないわけではないし。まあ気楽に出かけよう?」
「はい」
そろりと体を動かして体勢を変える。
THE・二人羽織。
「こうするのが好き?」
「好き、ですね」
腕の中にすっぽりおさまって、包みこまれている感じが心地よい。
「広めの風呂でよかった」
「いい塩梅、ですよね」
「ほどよいゆとり?」
「ですね」
(ああ、なんだか……)
空気がほのかに甘く色づいていくみたい。
「千佳さんは、今日もこの後勉強したりする人?」
遠回しにサボりをすすめられている件。
「今夜はお休みしようかと。もう、遅いですし?」
サボることを正式に表明す。
「秋彦さんは? 練習と勉強されますか?」
まさかサボりますよねと念押しす。
「今夜はさすがに。もう遅いし、ね」
大人の夜はまだ始まったばかり。
バレンタインデーはつづくのだもの。
いつでも寝られる準備を万端整えて寝室へ。
ぬくぬくいちゃこらしつつ、パジャマを脱がされ、本日の下着があらわにされる。
今夜はあからさまにバレンタインにちなんで選んだ色、だったのだけど。
「これは、チョ……ココア?」
「チョコレート、ですよ。というか、秋彦さんは何を深読みしているんですか……」
「いや、たまには当てにいってみようかと」
「別に、ひっかけようとか裏をかこうとか思ってませんし」
「果敢に挑戦したらこの始末。無念」
残念そうな口ぶりでも、彼はなんだか楽しそう。
「千佳さん、いい匂いがする」
「えっ」
(ああっ……)
彼の鼻先と吐息が肩口に触れ、体がびくんと反応する。
(いい匂いも何も、一緒にお風呂入ってたし)
「秋彦さんもおんなじ匂いてすよっ」
「千佳さんのほうがいい匂いだよ、絶対」
「絶対、て、何がっ……」
すんすんされるのはくすぐったくて、ちょっと困る。
でも、嫌かというとそうでもなくて……だから余計になんか困る。
「意地悪、ですっ……」
「千佳さん」
彼の静かな声がまっすぐに響く。
「“約束の言葉”は大丈夫?」
とても穏やかで優しいけれど、甘やかなそれとは違う彼の眼差し。
私は真剣にこっくり頷いた。
「大丈夫です。秋彦さんも、ですよ?」
「もちろん」
私たちは“ルール”と“約束の言葉”を持っている。
ルールというのは“お互いにいつでも行為を中止することができる”というルールで。
約束の言葉というのは“中止したいということを伝えるためのキーワード”のこと。
私たちは別段その……ともすれば痛みを伴うような際どい趣味は今のところないのだけど。
それでも“約束の言葉”を持っていたほうがよいというのが彼の考え。
いくら相思相愛でも、やっぱり別々の人間だから。
思考を察するには限界があるし、それこそ人間はときとして自分に都合よく思いこんだりする生き物だから。
だから、私たちは言葉をもって伝え合わなければならないのだと。
ちなみに、私たちはまだその“約束の言葉”を使ったことがない。
それでも、彼はこうしてときどき確認をする。
私たちは対等であること、想い合える関係であること、守り合える関係であることを。
向かい合うかっこうでゆったり湯船に浸かりながら、なんとなく明日の話をする。
「どんなのがいいとか、何か思いついた? ノープランでも焦ることはないし大丈夫だけど」
こういうところ、優しいなあって思う。
「なっちゃんがお店のHPでいろんなデザインが見られるよって教えてくれたので」
“なっちゃん”は彼が“夏姉”と呼ぶ、彼のお姉さんのこと。
ちなみに、なっちゃんは私のことを“チーちゃん”と呼び、弟である彼を“アキ君”と呼ぶ。
「毎日つけていたいので、シンプルなものがいいとは思っていて」
「なるほど」
「なんとなく素敵だなあと思うデザインがいくつかあったので、それを参考にご相談できればと」
「絶対に明日決めなくてはいけないわけではないし。まあ気楽に出かけよう?」
「はい」
そろりと体を動かして体勢を変える。
THE・二人羽織。
「こうするのが好き?」
「好き、ですね」
腕の中にすっぽりおさまって、包みこまれている感じが心地よい。
「広めの風呂でよかった」
「いい塩梅、ですよね」
「ほどよいゆとり?」
「ですね」
(ああ、なんだか……)
空気がほのかに甘く色づいていくみたい。
「千佳さんは、今日もこの後勉強したりする人?」
遠回しにサボりをすすめられている件。
「今夜はお休みしようかと。もう、遅いですし?」
サボることを正式に表明す。
「秋彦さんは? 練習と勉強されますか?」
まさかサボりますよねと念押しす。
「今夜はさすがに。もう遅いし、ね」
大人の夜はまだ始まったばかり。
バレンタインデーはつづくのだもの。
いつでも寝られる準備を万端整えて寝室へ。
ぬくぬくいちゃこらしつつ、パジャマを脱がされ、本日の下着があらわにされる。
今夜はあからさまにバレンタインにちなんで選んだ色、だったのだけど。
「これは、チョ……ココア?」
「チョコレート、ですよ。というか、秋彦さんは何を深読みしているんですか……」
「いや、たまには当てにいってみようかと」
「別に、ひっかけようとか裏をかこうとか思ってませんし」
「果敢に挑戦したらこの始末。無念」
残念そうな口ぶりでも、彼はなんだか楽しそう。
「千佳さん、いい匂いがする」
「えっ」
(ああっ……)
彼の鼻先と吐息が肩口に触れ、体がびくんと反応する。
(いい匂いも何も、一緒にお風呂入ってたし)
「秋彦さんもおんなじ匂いてすよっ」
「千佳さんのほうがいい匂いだよ、絶対」
「絶対、て、何がっ……」
すんすんされるのはくすぐったくて、ちょっと困る。
でも、嫌かというとそうでもなくて……だから余計になんか困る。
「意地悪、ですっ……」
「千佳さん」
彼の静かな声がまっすぐに響く。
「“約束の言葉”は大丈夫?」
とても穏やかで優しいけれど、甘やかなそれとは違う彼の眼差し。
私は真剣にこっくり頷いた。
「大丈夫です。秋彦さんも、ですよ?」
「もちろん」
私たちは“ルール”と“約束の言葉”を持っている。
ルールというのは“お互いにいつでも行為を中止することができる”というルールで。
約束の言葉というのは“中止したいということを伝えるためのキーワード”のこと。
私たちは別段その……ともすれば痛みを伴うような際どい趣味は今のところないのだけど。
それでも“約束の言葉”を持っていたほうがよいというのが彼の考え。
いくら相思相愛でも、やっぱり別々の人間だから。
思考を察するには限界があるし、それこそ人間はときとして自分に都合よく思いこんだりする生き物だから。
だから、私たちは言葉をもって伝え合わなければならないのだと。
ちなみに、私たちはまだその“約束の言葉”を使ったことがない。
それでも、彼はこうしてときどき確認をする。
私たちは対等であること、想い合える関係であること、守り合える関係であることを。



