「ソフィア。悪魔公爵から、お前と婚約したいと申し出があった」


 父から冷たく言い放たれた言葉を聞きながら、私――ソフィア・フォスティーヌは、どうしてこんなことになったのかと思案していた。


 ♢

 私は子爵家である、フォスティーヌ家の長女として生まれた。
 一応貴族ではあるものの名ばかりで、家はとても裕福とは言い難い状態だった。

 そんなフォスティーヌ家の誇りは、私の妹、アンジェラだ。
 この世界には、魔力を持ち、魔法を使える人間が稀に生まれる。

 アンジェラは、街の人々から『奇跡の聖女』と呼ばれていた。
 彼女はどんな病でも治すことができる、特別な魔法が使えたからだ。


 お父様もお母様も、私の一族は代々魔法が使える血筋だった。
 それなのに、なぜか私は何の魔法も使えなかった。

 聖女と呼ばれ周囲の人たちから賛辞されている妹と比べられ、私は何の能力も持たないことから家族から「役たたず」と蔑まれながら育った。

 魔法が使えない私は、一族の恥だったようだ。


 甘やかされて育ったアンジェラは、私のことを召使いのように扱うようになった。
 父も母も、決してそれを止めようとはしなかった。
 妹に対しては優しい父と母も、私のことをあからさまに厄介者として蔑んだ。
 幼い頃は、それでずいぶん寂しい思いをした。

 私も魔法が使えるようにならないかと何度も訓練をしたが、私は十六歳になっても、いっこうに魔法を使えるようにはならなかった。
 そして家族に愛されずに成長していくうちに、私は心を閉ざし、表情を失っていった。

 私はいつしか周囲の人々から『氷の乙女』と呼ばれるようになった。
 おそらく私のアイスブルーの長い髪と瞳の色も、氷を連想させるからだろうか。

 だが周囲の人が何と言おうと、どうだってよかった。
 人々が私を「氷のように冷たい女だ」と言うなら、本当にそうなればいいと思った。

 悲しみも怒りも、心を凍らせればきっとそのうち何も感じなくなる。