「昨日はありがとうございました。記憶にないのですが。」
そう先生に言った時の話です。

この間まで、もうどうしようもないくらいの不安感で息が苦しかった。この間まで。
その日は学校なんて行ってる場合じゃなかった。自分に、とにかく息が吸えていれば満点と言ってやれば良かったのに何となく先生の顔が浮かんできたので布団から出てみた。「もう休んじゃダメだよ」と言う先生。「分かりました」と返し、約束した時の自分に見られている気がして。重い身体を起こし、仕方なくメイクを始めた。もう眉毛なんてなくてもいいんじゃねとか思ってる自分がいたが、爆音で鳴っている音楽が眉毛を描く気にさせてくれた。そんな音楽でも、学校に行く気にさせるのは難しいみたいだった。まだ行きたくない。というか生きたくない。あぁ、学校に着いたら寝ちゃえばいいのか、、、四限まで寝ちゃえば、、、。そんなこんなでメイクが終わり、次は支度。歯磨きをした後は水が飲みたい。あれ、そういえば眠剤余ってたよな?あれは40分くらいで効くから今から飲んだらちょうどいいか、、、。そんなこと考えているうちにもう飲み終わっていた。服薬中止と言われていたけど、一シートくらいなら。
自分は、一錠でめまいと吐き気に襲われたのを忘れたのか。前の薬で用量を無視し、意識をなくしたのを忘れたのか。分からないけど、確かに飲んだ。ようやくこれで学校に行けると思うと嬉しかった。バス停へ軽い足取りで向かい、電車の中でもウキウキしてた。学校に早く着いたら朝ごはん食べてもう寝るんだと楽しい予定を立て、学校へ向かった。教室に入ると担任の先生がいた。

「先生の目が四つに見えます。」

そこからは記憶にない。

記憶にないのでここからは友達から聞いた話。
目が四つに見えると訳の分からないことを言い放った自分はその後床に寝ようとしたので友達が保健室まで連れて行ってくれたらしい。自分の足で歩いた記憶が無いので、運ばれたのかと思っていた。
保健室で横になってから時間が経ち、色々な先生が色々な素晴らしい話をしてくださったと思うが、自分も色々ありどうにかなっちゃってるのでもちろん覚えていない。先生が来る度、「授業に出なきゃなんで。」と告げ教室に向かったそうだが、あまりにもフラフラ歩行をしてたのでその都度保健室に戻された。
複視と幻視は一日続いた。刺股は二つあるように見え、「あの、あれもう一つ買ったんですね。え、二つも入ります?なんで二つなんですか?何でですか?」という自分に対し、冷静に「あのね、一つだけだよ。」と答える先生。
あるはずのない窓から夕日を浴び、こんな所にボタンなんてあったかな、と壁を見つめた。
そんな訳で色々あって気がつくと十六時をまわっていた。友達と「カフェに行こうね」と前日に約束してたのを思い出し、何故か意味の無い教室へ向かい、また記憶を飛ばしてはやっとの思いで友達と合流できた。「どこのカフェ行こうか。体調はもう大丈、、オエッ、、、」これだけは覚えている。消したいのに。
少し歩き、「珈琲館」の看板が見えてきた。目を開けるとオレンジジュースが置かれていた。一口飲もうとすると「オエッ、、、」お洒落な店内でトイレまでガンダッシュするのは初めてだった。良い体験ができた。その後、りんご飴を食べた。
これ以外は自分が目をつぶっていたかのように記憶から抜けている。あぁ怖い怖い。
どうやって帰ったのかも分からないけど、何事も無かったかのように帰宅し、何事も無かったかのように朝を迎えた。
学校に着き、教室に入ると担任の先生がいた。


「昨日はありがとうございました。記憶にないのですが。」


誰かが言っていた通り、死に極限まで近づいた後は何故か生きる気力が湧いた。

それは生きるためのヒントを与えてくれているように思えた。