人魚と妖精


「ようせいさん、あっちに行ってみましょう、気になるものがあるの」


ラティーナの言葉を聞いて、妖精は首を横にふりました。


「いけないよ、人魚の子。あちらは人間たちの住む場所から近すぎる」


止めようとする妖精の言葉に、ラティーナが口を開こうとしたとき、遠くから声が聞こえました。

それは生き物が泣いているような声。

言葉にならない、悲しげなその声を聞いていると、ラティーナの心は“なにかしてあげなければ”という使命感に襲われました。


「ああ、昨日の夜、私が見たのは“あかんぼう”だったのだわ。きっとにんげんが浜辺で忘れていったのよ…!」


「だめだよ、人魚の子。それは違う。あれに近づいては酷い目にあうだろう」


声のする方へ向かおうとするラティーナの腕を、妖精が掴みました。


「離してちょうだい、ようせいさん!私、いってあげないと…あの子を家族に返してあげたいの」


「人間は赤ん坊を置いていったりしないよ。子の近くには親がいる…きっと近くに身を潜めて、僕たちが来るのを待っているはずさ」


賢い妖精には、これがにんげんたちの考えたワナだと分かっていました。

向こうに行けば、捕まってしまう。

だけどラティーナは、ついに妖精の手を振り払い、赤ん坊の声がする方向へと泳いでいってしまいました。