人魚と妖精


海の中は、まだ嵐で混乱しています。

ラティーナは両親の目を盗み、隠してあった“にんげんの落とし物”を手にとり、再び島の近くまで泳ぎました。

大きな岩陰に潜み、夜が明けるのを一人で待ちます。

その間、考えていたのは島のこと、にんげんのこと、“ちょう”のこと…そしてあの妖精のことでした。


「あの場所のことをもっと知りたい…でも危ないところなのよね…?」


明日が終われば、きっと妖精はラティーナと会ってはくれないでしょう。


「他にも“にんげんの落とし物”があればいいのに…それがなにか教えてもらえれば、少しでも長くあの場所にいられるのに…」


ラティーナがそう呟いたときです。

浜辺の辺りに、なにか赤い光が見えました。


「あれはなにかしら…?」


ラティーナは息をころして岩陰にから浜辺を見つめます。

赤い光は、二つの足を持つ生き物の影を映し出しました。

もしかして、あれが“にんげん”でしょうか。

にんげんらしき影は、浜辺でしゃがみ込んだあと、森とは反対の方向に歩いて行きました。