「待って、いかないで…」
それを追いかけようと、ラティーナは再び両手で水をかき分け、尾びれをパタパタと動かします。
跳ねる水しぶきの音に、数羽のカモメたちが飛び立ちました。
そのときです。
森の向こうから声がしました。
「人魚の子よ、そんなに音をたててはいけないよ」
ラティーナが動きを止めて見つめた先には、すらりと背の高い男の子がいました。
背中には先程の“美しいなにか”と同じ…いえ、それよりももっと美しい羽が生えています。
「まあ、美しいあなたは誰なの?」
「僕はこの森に住む妖精さ。キミがワナにかかっていると、この蝶が教えてくれてここにきたんだ」
そう告げる妖精の頭上を、あの“美しいなにか”がふわふわ飛びまわっていました。
「その“美しいなにか”は、ちょうというのね?」
「そうだよ、人魚の子よ」
「妖精さん、あなたが言っていた“わな”というのは、この“ごわごわしたなにか”のことなの?」
「そうさ。人間が作った賢くて残酷な物なんだよ」
ラティーナの問いかけに、妖精はワナを解きながら答えます。



