それは、とある悲しいお話です。

人魚のラティーナが住んでいる広い海の真ん中に、その島はありました。


「いいかい、あの島に近寄ってはいけないよ」


幼いころから大人たちに言われてきた言葉。

だけど、なんで近寄ってはいけないのか。

詳しいことは誰も何も教えてくれません。

父親も母親も、他の人魚たちも、魚たちも。

誰も教えてくれないのです。


「本当にあの島に近寄ってはいけないの?あの場所は本当に、危ないだけの場所なのかしら?」


海のことしか知らない少女、ラティーナは島に憧れを持つようになりました。


___いつか、あの場所へ行きたいな。


そんな思いをつのらせていたとき。

雲が真っ黒な雨雲におおわれ、大きな嵐がやってきたのです。

ラティーナにとって13回目の冬のある日のことでした。

仲間たちが逃げまどい、岩陰に隠れる中。


「島に行くなら、きっと今しかないわ」


ラティーナは一人、嵐から逃げるふりをして、島へと向かい尾びれを動かしました。