ようやく帰りのHRが終わると、リュックをひったくって立ち上がる。
 一刻も早く家に帰りたかった。

「朋子!」

 けれど、もうすぐ正門というところで、背後から夏輝に呼び止められてしまった。
 仕方なく、振り返った。

「……何?」
「今朝の聞いてた? 俺がロングが好きとかって話してたの」

 あのタイミングで教室に入っておいて、聞いてないと答えるのは、あまりにも白々しい。
 だから、正直に返事をするしかなかった。

「うん、聞いてた。でも……」

 私には関係ないし。
 気にしてないから。
 
 顔がひきつってしまって、言葉がうまく出てこない。

「あ、あのさ、ロングは好きだったっていうか、今も好きだけど、俺今日からはおかっぱも好きになったから」
「おかっぱって……?」

 私は自分の頬にかかるサイドの髪を一筋摘んだ。

「その髪型のこと!」

 夏輝はそれだけ言うと、ものすごい勢いで校舎に戻っていく。
 私はぼう然と、その背中を見送ることしかできないでいた。

 しかし、しばらくして我に返ると、慌ててくるっと向き直った。
 そうして、通学路を歩き始めた。
 地面を蹴るたびに、短くなった髪は軽やかに浮くのだった。


END