「そういえば夏輝、女子はさらさらのロングがいいとかって言ってたよな?」
夏輝としょっちゅうつるんでいる柊一郎が言う。
そこには、冷やかすようなニュアンスが含まれていた。
「あー、そんなようなこと言ったかも……」
「えっ、そうなんだ。知らなかったあ」
一段高くなっていた紗弥の声は、少しも驚いているようには聞こえなかった。
きっと知ってたんだ。それでストパーかけたってことは、紗弥も夏輝のことを……?
胸の中心にあったものが冷えていくのを感じる。
「おはよう」
涼しい顔を作って教室に入った私を見て、皆がぎょっとする。
さらさらロングがいいという話をした直後に、それを放棄した女子が現れたのだ。
さぞかし気まずいことだろう。
「お、おはよう」
「朋子もイメチェンしたんだね」
うんそうなんだ、とだけ返す。
自分の机だけを目指して、ほかは何にも見ないようにしながら。
髪、切らなきゃよかった……
そんな後悔でいっぱいになった──



