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 今日は始業式。
 恋物語を妄想するのは、夏休みと同時にお終い。
 現実世界では、最後まで名前すら知らないままだった。
 分かってる、そんなものだ。

 登校して、靴箱に靴を仕舞う。
 そのとき、背後に人が来たのを感じた。
 向かい側の靴箱、ということはふたつ隣のクラスの人のはず。

 私よりずっと背が高い。
 ということは男子だろう。

 あれ?
 でも、私はこの気配を知ってる──

 肩越しに見ると、その人と視線が交わった。

「図書館の!」

 思わず叫んでしまった。

「何だ、俺のこと気づいてくれてたんだ。やっとだ。やっと目が合った!」
「私のこと、知って……?」
「夏休み中ほぼ毎日図書館に来てたよね? 校内で見かけた記憶があって、同じ学校なのは知ってた。こんなこと言うと恐いかもしれないけど、ずっと話しかけてみたいと思ってた」

 私たち、どうやら現実世界でも何か始まっていたみたい。

「わ、私も! 話してみたいって思ってた」
「ホントに⁉︎  あっ、そういえば自己紹介もまだしてないね。俺、D組の……」



END