◯つむぎと飯原の帰路
つむぎと飯原の一部始終を目撃し、憎悪の感情を募らせる恋恋。狂気の表情を浮かべている。
恋恋「いい、は、ら…。あいつがラブレターの送り主か…」
恋恋はつむぎとは別の道を行く飯原を尾行する。
飯原「本当に嬉しいなぁ…」
有頂天になる気持ちを抑えながら足早に自宅への帰路を急ぐ飯原。
飯原「芥見さんは本当にいい娘なんだよな…」
過去に思いを馳せる飯原。

◯飯原の回想
飯原(実は中学から同じ学校だったけど、芥見さんとは別々のクラスだったこともあり、接点がなかった)
飯原(僕は地味で取り柄もない人間で、同級生からのイジメは日常茶飯事だった)
飯原(あれは中学2年生の時。イジメグループに鞄を取られ川に投げ込まれたことがあった)
飯原(僕はすぐに川に飛び込んで、鞄を拾おうとしたけど、鞄が流されてしまって…)
飯原(それを見ていた芥見さんが鞄を拾ってくれた)
つむぎは落ちていた木の枝を使って鞄を手繰り寄せ、飯原に鞄を返してあげる。
つむぎ「鞄びちょびちょになっちゃったけど、教科書は乾かせばきっと使えるよ!」
笑顔で話しかけるつむぎ。
繭「あちょー!!」
橋の上ではイジメグループに飛び蹴りを繭がお見舞いしている。
繭「てめぇらよってたかって恥ずかしくねぇのか!!」
つむぎ「繭ちゃーん、やりすぎないでね〜」
少し心配そうに繭に声をかけるつむぎ。
飯原(高瀬繭は中学ですでに金髪で目立つ女の子だったから、知っていたけど、その友達がこんな可愛い女の子であることを初めて知った)
つむぎ「服も濡れちゃったから、早く帰って着替えた方がいいよ、風邪ひいちゃう」
飯原「あ、ありがとう」
飯原(一目惚れだった。なんて優しい娘なんだろうと思った)
飯原(後々、芥見蛇神社の娘で、同級生だと知ったけど、奥手な性格もあってずっと思いを告げられないまま、卒業してしまった)
飯原(進学先が同じ高校だと知った時には今度こそ思いを告げようと決意した)

◯飯原の帰路
飯原「振られるだろうと思っていたのにまさか成功しちゃうだなんて…」
希望に満ちた表情で笑顔になる飯原。
飯原「!!!」
急に頭全体を水に覆われる飯原。
飯原「がはっ…!」
飯原(なんだこれは…!なんで急に水が…!)
急な事態に冷静さを欠いてもがき苦しむ飯原。そのまま首を手で押さえたまま膝をつく。酸欠も相まって意識が遠のく飯原。頭の周りを覆っていた水が急に弾け飛ぶ。
飯原「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!」
水を飲んでしまったため、咳き込む飯原。次の瞬間頭部に強い衝撃を受け、倒れ込む飯原。
飯原「ぐはっ!」
朦朧とした意識の中、襟裳を掴まれ、仰向けにされる飯原。
飯原「ゲホッ…!」
そのまま、何者かに馬乗りにされ、何度も顔面を殴られる飯原。
飯原「えはっ!うはっ!ゲホッ…!」
何度も顔面を殴られ、再び意識が遠のく飯原。
布で顔を隠す男「2度と芥見つむぎに近づくな…。次はない」
薄れゆく意識の中で顔面を布で覆っているが、真紅の冷たい眼で自分を見下ろす何者かの姿を確認する飯原。
飯原「だ、だれな、んだ、おま、えは…」
布で顔を隠す男「お前は知る必要ない。僕の世界から消えろ」
最後に1発顔面を拳で殴られ、意識を失う飯原。

◯つむぎの帰路
飯原と別れて帰宅中のつむぎ。
つむぎ(そう言えば、ママに醤油のお使い頼まれてたなぁ。スーパー寄ってから帰ろう)
スーパーマーケットに向かうつむぎ。

◯恋恋の帰路
恋恋「はぁ…、はぁ…」
呼吸を荒げながら、芥見蛇神社に急ぐ恋恋。
恋恋(まずいな…。余計な時間を使っちゃったから遅くなった…。つむぎちゃんより早く家に戻らなくちゃ!)
蛇神(驚いた…。変身もろくにできない状態で
水神の力を使えるようになるとは…。あの飯原という少年に対する嫉妬の感情が力を目覚めさせるきっかけになったか…)
恋恋の力に感嘆の感情を持つも、溜め息をつく蛇神。
蛇神(しかし、神力を悪き理由で利用することについてはいただけぬのぅ…)
複雑な心境で状況を思案する蛇神。

◯芥見蛇神社
エコバッグを持って鳥居を潜るつむぎ。
つむぎ「パパ、ただいま〜」
父「おかえり、つむぎ」
境内の掃き清めを行なっている手を止め、つむぎに挨拶をする父。
父「お使いありがとう」
つむぎの持つエコバッグを見て、母からのお使いを頼まれたことを察して、労いの言葉をかける父。
つむぎ「暇だからだいじょーぶ!」
父「いつもすまないね」
つむぎに声をかけてから蛇神像に視線を移す父。
つむぎ「?パパどうしたの?」
父「いや…、大したことではないんだけど、蛇神様の像に黒いシミみたいなものができてしまって…」
つむぎ「本当だ…」
蛇神像を見ながら呟くつむぎ。
父「朝、像を磨いていた時は気付かなかったんだが…。まぁ、歴史のある像ではあるから、シミの一つや二つあるだろうけど、妙に気になってね」
つむぎ「そうなんだ…」
つむぎ「あっ!そういえば同級生でこの神社、有名ですよねって言ってくれた子と今日知り合いになったよ!」
父「そうか!あまり大きくないけど、それなりに参拝者はいるし、地元での知名度はまぁまぁなんだな」
つむぎ「そうみたい!」

◯芥見家つむぎの部屋
つむぎ「恋恋ちゃんただいま!
ドアを開けて部屋に入るつむぎ。
恋恋(おかえり、つむぎちゃん)
蛇の姿で水槽にいる恋恋。
つむぎ「わぁ、本当に話してる!」
恋恋(なんだよ、今更)
つむぎ「今日ずっと考えたんだけど、私、恋恋ちゃんとお話しができるようになって本当に嬉しい!」
興奮した様子で話すつむぎ。
つむぎ「ちっちゃい頃からの夢だったんだ!恋恋ちゃんと話せたらどんなにいいだろって」
恋恋(そうなんだ?)
つむぎ「そうだよ!私、恋恋ちゃんのこと大好きだもん!昨日は突然のことでびっくりしたけど、今日はいっぱい話そ!」
恋恋(…ありがとう。僕もつむぎちゃんと話せて嬉しいよ)
つむぎ「うん!」

第四話「かの蛇、ただならぬ嫉妬の心に迷ひて、神がかりの霊威をあしきわざの料に施すなり」終わり