◯つむぎの夢
謎の声「僕がつむぎのこと一生守るから…」
色白な手に引かれ抱きしめられるつむぎ。冷たい肌の感覚を感じる。
つむぎ(誰?)
◯芥見家つむぎの部屋
ちゅんちゅん…。雀の声と朝の光で目を覚ますつむぎ。
つむぎ(何?今の夢…。最近変な夢多いな…)
つむぎ「恋恋ちゃん、おはよう」
瞼を擦りながら、ベットの横にある恋恋の水槽に話しかけるつむぎ。
恋恋(…。ふぁ〜、おはよう、つむぎちゃん)
つむぎ(…)
呆然とするつむぎ。
つむぎ「うわぁーっ!恋恋ちゃんが喋った!?」
恋恋(つむぎちゃん…。昨日のこと覚えてないの?)
つむぎ「はっ、そうか…。恋恋ちゃんが喋り出したのは夢ではなかったのか…」
恋恋(寝ぼけてるの?)
つむぎ「…」
無言で朝の支度をするつむぎ。
つむぎ(寝て起きても、なかなか思考が整理できないなぁ…)
恋恋(昨日ドタバタしてたから、ご飯もらいそびれちゃったよ。今日はちょうだいね)
つむぎ「そっか!ごめんね、すっかり忘れてた」
恋恋(大丈夫。結果として驚かしたのは僕だから)
つむぎ「…。今気付いたけど、恋恋ちゃんの声、蛇の姿の時は頭に直接語りかけてくるみたいな感じだね」
恋恋(蛇の姿だと、口の構造の問題なのかな?音が出ないんだよね…。そのかわり、直接頭に語りかけることはできるみたい)
つむぎ「ふーん、そうなんだ」
ふと、時計を見て時間を確認するつむぎ。
つむぎ「あっ、そろそろ行く時間だ!学校行ってくるね」
恋恋(…)
自室を出ていくつむぎ。
恋恋(本当に嫌になっちゃうよなぁ、学校のせいでいつも一緒にいられない…)
恋恋(そもそも、つむぎちゃんは学校で何をしているんだろう…)
恋恋(学校は勉強するところらしいけど、友達と遊ぶ場所でもあるらしい…)
恋恋(繭ちゃんはよく遊びに来るから知ってるけど、他にも友達いるのかなぁ…)
つまらなそうにうねうねと身体を動かしながら思案する恋恋。
恋恋(男の子の友達もいるの、かな…)
ドクンと心臓の鼓動が強くなり、自身の身体の変化に戸惑う恋恋。
恋恋(何だろう…?今の感覚…。経験したことのない…)
部屋の隅に置かれたつむぎの鞄を見つける。
恋恋(あれ?つむぎちゃん鞄忘れてる…)
恋恋(…)
鞄を見つめて何かを思案する恋恋。
◯数十分経過したつむぎの自室
ドアを開けて自室に戻るつむぎ。
つむぎ(鞄忘れてた…)
ふと、恋恋の水槽に視線を移すつむぎ。
つむぎ(恋恋ちゃん、寝てるのかな…)
静かにドアを閉め、自室を後にするつむぎ。
◯通学中
つむぎ(昨日は急な展開ですごくびっくりしたけど、ずっと前から恋恋ちゃんと話せたらいいのにってずっと思ってたから、とっても嬉しい!帰ったらいっぱい話そ!)
恋恋のことを考えながら歩くつむぎ。
繭「よっ、蛇娘」
つむぎ「あっ、繭ちゃんおはよー」
繭「あんたが今考えてたこと当ててやろうか」
ニヤニヤしながら、話しかけてくる繭。
繭「今日、恋恋ちゃんと何話そうかな?キュピン❤︎」
つむぎの声を真似ているが、全く似ていない甲高い声で茶化す繭。
つむぎ「おわ!何でわかったの!?繭ちゃんメンタリスト!?」
繭「それしか頭にないヤツの思考を当てるなんて造作もないことよ!」
つむぎ「そうだ。繭ちゃんに相談したい事があって…」
繭「ん?」
つむぎ「これなんだけど…」
つむぎが小洒落た封筒を繭に渡す。
繭「芥見つむぎ様…。ん?ラブレター?」
封筒を凝視しながら繭が答える。封筒の裏面には「飯原伸二」という名前が書かれている。
つむぎ「みたいなやつかなぁーって…」
繭「Foooo!!モテるねーっ!こんな蛇オタク付き合ってもしょーもねーぞーっ」
空に向かって叫ぶように茶化す繭。
つむぎ「繭ちゃん、茶化さないで!」
照れながら怒るつむぎ。楽しそうに会話を続けながら、2人で歩くつむぎと繭。
◯つむぎの通う学校
同級生と楽しそうにおしゃべりをしたり、授業を受けたり、昼食を摂るつむぎ。5限目まで終了。
繭「6限目美術室だって」
つむぎ「うん。行こう」
教室を移動するつむぎと繭。誰もいなくなり、静まり返る教室。
恋恋(…)
つむぎの机の横にかけられた鞄のファスナーの隙間から顔を覗かせる恋恋。
恋恋(作戦成功!ついにずっと謎だったつむぎちゃんの学校での様子を知ることができたぞ!)
恋恋(つむぎちゃんとずっと一緒にいられてる…)
恋恋(…しかしなんだあの男は…)
2限目の数学で隣の席の「坂口」という男子生徒が教科書を忘れ、つむぎと机を並べて教科書を一緒に使用する場面を思い出す恋恋。
恋恋(つむぎちゃんにあんなに近づきやがって.…)
恋恋(ムカつく…)
眉間に皺を寄せながら人間化する恋恋。
「坂口」の机を睨みつけると横にかけられた鞄に気づく。
恋恋「お前なんてこうだ」
「坂口」の鞄を持ち上げると窓を開け、外に放り投げる恋恋。
恋恋「ははっ、いいきみだ」
鼻で笑いながら悪戯な笑みを浮かべる恋恋。
恋恋「あとはあのラブレターをつむぎちゃんに渡した奴が気になるな…。どいつだろ?」
恋恋「おっと、裸の状態で誰かに見つかったら事だ。蛇に戻ろう」
眼を閉じ、瞑想する恋恋。
恋恋「…」
恋恋「…」
恋恋「…」
恋恋「うーん、戻れない…」
困り顔の恋恋。
恋恋「これはまずいぞ…。裸の男が教室で発見されたら、即通報される…」
恋恋「蛇神様?」
恋恋「…」
恋恋「肝心な時に助けてくれないな!」
裸で右往左往する恋恋。
恋恋「!」
何かを思いつく恋恋。
恋恋「とりあえず、服を着よう!つむぎちゃんのジャージがあるはず!」
繭「ようやく終わった〜。つむぎ帰ろ〜」
繭の声が教室に向かって近づいてくる。
恋恋「まずい!」
急いでつむぎのジャージを着る恋恋。
繭によって教室の扉が開けられる。そこには誰もいない。開いている窓に気付く繭。
繭「おい、誰だよ、窓開けっぱなしにしたやつ!松島にまた小言言われんだろ!」
つむぎ「先生を呼び捨てにしてるのも、小言言われる原因だよ…」
苦笑いで答えるつむぎ。
坂口「あれ?俺の鞄がない…」
会話をするつむぎと繭の後方で坂口が呟いている。
恋恋(危なかった…)
開いている窓の真下でつむぎの上下ジャージを着た恋恋が身体を屈めて隠れている。
恋恋(これからどうしよ…。いくら学校のジャージ着てても校内歩くと多分目につくよな…)
恋恋(人間と蛇の変身をコントロールできるようにならないと不便だな…)
恋恋(繭ちゃんがもう帰ろうって言ってたな…。先に帰って蛇に戻っておかないと今日の事がバレるな…)
◯下校時間
靴を履き替えて外に出ようとするつむぎと繭。
繭「ん?」
繭が顔を赤ながら待っている1人の少年に気付く。
繭「2組の飯原じゃん」
何かに気付く繭。
繭「あっ、そういうことかぁ〜♪」
繭「つむぎ!私これからバイトだから速攻で帰るわ!また明日!」
ニヤニヤしながらつむぎの返答を待たずに走り去っていく繭。
つむぎ「えっ、繭ちゃん!?行ってしまった…」
飯原「あの…、芥見さん…。今時間いいかな?」
つむぎ「えっ…」
飯原「もしよかったら一緒に帰らない?」
つむぎ「あっ、えーっと…。どちら様ですか?」
飯原「あっ、ごめん!!えっと、下駄箱に手紙を入れさせてもらった2組の飯原伸二と言います…」
飯原は短髪で中肉中背の冴えない感じの男子だが、制服をピシッと着て如何にも真面目そうなタイプ。
つむぎ「あっ、ごめんなさい!飯原さん!手紙書いてくれた人!初めまして!」
飯原「こ、こちらこそ急にごめんなさい!!」
つむぎ(繭ちゃん、飯原君見て、急いで帰ったんだ!初めての人と2人っきりなんて緊張しちゃうじゃん!)
しどろもどろになるつむぎ。
飯原「それで、あの、手紙の返事が聴きたくて…」
つむぎ「あっ、1週間も待たせてしまってごめんなさい!」
飯原「いや、いいんだ…、ここでっていうのもなんだから、歩きながら話さない?あっ、もちろん、よかったらだけど…」
つむぎ「あっ、えーっと…、じゃぁ、一緒に帰ろっか?」
ぱっと表情が明るくなる飯原。
飯原「あ、ありがとう!!」
2人で下校するつむぎと飯原。
◯帰宅路
飯原「芥見さんの家はこっちだよね?」
つむぎ「あっ、うん。私の家知ってるんだね」
飯原「いやっ、その、調べたとか、後をつけたとかじゃなくて!芥見蛇神社はこの町では有名だからさ」
慌てて返答する飯原。
つむぎ「あっ、そっか」
つむぎ(あんな小さな神社でも地域の人にとっては有名なのか、やったねパパ!)
優しい表情でピースをする父を思い浮かべるつむぎ。
*しばらく他愛のない会話を交わすつむぎと飯原。
飯原「俺、家こっちだから…」
つむぎ「そうなんだ。じゃぁ、また明日…」
別れの挨拶をして、飯原に背を向けようとするつむぎ。
飯原「芥見さん!好きです!付き合ってください!」
急に大きな声でつむぎに告白する飯原。深々の頭を下げている。
つむぎ「えっ!あの、その…」
つむぎ(こういう時、どうやって断ればいいかわからないから、繭ちゃんに相談したのに!全然取り合ってくれないからっ!!!)
悪戯な笑みを浮かべる繭を想像して、怒りに震えるつむぎ。
つむぎ「あの、えっと、私まだ飯原君のこと何も知らないから…、えっと、今日初めてあったし…」
しどろもどろになって答えるつむぎ。飯原は頭を下げたまま微動だにせず、つむぎの話を聴いている。
つむぎ「あの友達から…」
飯原「やったぁーーーーっ!!!!ありがとう芥見さん!これからよろしく!」
満面の笑みで走り去っていく飯原。
つむぎ「えっ、えっ、えっ?」
飯原「明日からよろしくね、芥見さん!バイバイ!」
少し、走ってから振り返り、大きく手を振って満面の笑みで別れの挨拶をする飯原。それを呆然と見送るつむぎ。
つむぎ「…。何故彼はあんなに嬉しそうなの…?」
緊張と疑問で混乱するつむぎ。
恋恋「…」
後ろから隠れて一部始終を見ていた恋恋が眉間に皺を寄せ、憎悪の表情を浮かべる。
第三話「蛇を籠むる乙女は、男君より懸想の文を賜るなり」終わり
謎の声「僕がつむぎのこと一生守るから…」
色白な手に引かれ抱きしめられるつむぎ。冷たい肌の感覚を感じる。
つむぎ(誰?)
◯芥見家つむぎの部屋
ちゅんちゅん…。雀の声と朝の光で目を覚ますつむぎ。
つむぎ(何?今の夢…。最近変な夢多いな…)
つむぎ「恋恋ちゃん、おはよう」
瞼を擦りながら、ベットの横にある恋恋の水槽に話しかけるつむぎ。
恋恋(…。ふぁ〜、おはよう、つむぎちゃん)
つむぎ(…)
呆然とするつむぎ。
つむぎ「うわぁーっ!恋恋ちゃんが喋った!?」
恋恋(つむぎちゃん…。昨日のこと覚えてないの?)
つむぎ「はっ、そうか…。恋恋ちゃんが喋り出したのは夢ではなかったのか…」
恋恋(寝ぼけてるの?)
つむぎ「…」
無言で朝の支度をするつむぎ。
つむぎ(寝て起きても、なかなか思考が整理できないなぁ…)
恋恋(昨日ドタバタしてたから、ご飯もらいそびれちゃったよ。今日はちょうだいね)
つむぎ「そっか!ごめんね、すっかり忘れてた」
恋恋(大丈夫。結果として驚かしたのは僕だから)
つむぎ「…。今気付いたけど、恋恋ちゃんの声、蛇の姿の時は頭に直接語りかけてくるみたいな感じだね」
恋恋(蛇の姿だと、口の構造の問題なのかな?音が出ないんだよね…。そのかわり、直接頭に語りかけることはできるみたい)
つむぎ「ふーん、そうなんだ」
ふと、時計を見て時間を確認するつむぎ。
つむぎ「あっ、そろそろ行く時間だ!学校行ってくるね」
恋恋(…)
自室を出ていくつむぎ。
恋恋(本当に嫌になっちゃうよなぁ、学校のせいでいつも一緒にいられない…)
恋恋(そもそも、つむぎちゃんは学校で何をしているんだろう…)
恋恋(学校は勉強するところらしいけど、友達と遊ぶ場所でもあるらしい…)
恋恋(繭ちゃんはよく遊びに来るから知ってるけど、他にも友達いるのかなぁ…)
つまらなそうにうねうねと身体を動かしながら思案する恋恋。
恋恋(男の子の友達もいるの、かな…)
ドクンと心臓の鼓動が強くなり、自身の身体の変化に戸惑う恋恋。
恋恋(何だろう…?今の感覚…。経験したことのない…)
部屋の隅に置かれたつむぎの鞄を見つける。
恋恋(あれ?つむぎちゃん鞄忘れてる…)
恋恋(…)
鞄を見つめて何かを思案する恋恋。
◯数十分経過したつむぎの自室
ドアを開けて自室に戻るつむぎ。
つむぎ(鞄忘れてた…)
ふと、恋恋の水槽に視線を移すつむぎ。
つむぎ(恋恋ちゃん、寝てるのかな…)
静かにドアを閉め、自室を後にするつむぎ。
◯通学中
つむぎ(昨日は急な展開ですごくびっくりしたけど、ずっと前から恋恋ちゃんと話せたらいいのにってずっと思ってたから、とっても嬉しい!帰ったらいっぱい話そ!)
恋恋のことを考えながら歩くつむぎ。
繭「よっ、蛇娘」
つむぎ「あっ、繭ちゃんおはよー」
繭「あんたが今考えてたこと当ててやろうか」
ニヤニヤしながら、話しかけてくる繭。
繭「今日、恋恋ちゃんと何話そうかな?キュピン❤︎」
つむぎの声を真似ているが、全く似ていない甲高い声で茶化す繭。
つむぎ「おわ!何でわかったの!?繭ちゃんメンタリスト!?」
繭「それしか頭にないヤツの思考を当てるなんて造作もないことよ!」
つむぎ「そうだ。繭ちゃんに相談したい事があって…」
繭「ん?」
つむぎ「これなんだけど…」
つむぎが小洒落た封筒を繭に渡す。
繭「芥見つむぎ様…。ん?ラブレター?」
封筒を凝視しながら繭が答える。封筒の裏面には「飯原伸二」という名前が書かれている。
つむぎ「みたいなやつかなぁーって…」
繭「Foooo!!モテるねーっ!こんな蛇オタク付き合ってもしょーもねーぞーっ」
空に向かって叫ぶように茶化す繭。
つむぎ「繭ちゃん、茶化さないで!」
照れながら怒るつむぎ。楽しそうに会話を続けながら、2人で歩くつむぎと繭。
◯つむぎの通う学校
同級生と楽しそうにおしゃべりをしたり、授業を受けたり、昼食を摂るつむぎ。5限目まで終了。
繭「6限目美術室だって」
つむぎ「うん。行こう」
教室を移動するつむぎと繭。誰もいなくなり、静まり返る教室。
恋恋(…)
つむぎの机の横にかけられた鞄のファスナーの隙間から顔を覗かせる恋恋。
恋恋(作戦成功!ついにずっと謎だったつむぎちゃんの学校での様子を知ることができたぞ!)
恋恋(つむぎちゃんとずっと一緒にいられてる…)
恋恋(…しかしなんだあの男は…)
2限目の数学で隣の席の「坂口」という男子生徒が教科書を忘れ、つむぎと机を並べて教科書を一緒に使用する場面を思い出す恋恋。
恋恋(つむぎちゃんにあんなに近づきやがって.…)
恋恋(ムカつく…)
眉間に皺を寄せながら人間化する恋恋。
「坂口」の机を睨みつけると横にかけられた鞄に気づく。
恋恋「お前なんてこうだ」
「坂口」の鞄を持ち上げると窓を開け、外に放り投げる恋恋。
恋恋「ははっ、いいきみだ」
鼻で笑いながら悪戯な笑みを浮かべる恋恋。
恋恋「あとはあのラブレターをつむぎちゃんに渡した奴が気になるな…。どいつだろ?」
恋恋「おっと、裸の状態で誰かに見つかったら事だ。蛇に戻ろう」
眼を閉じ、瞑想する恋恋。
恋恋「…」
恋恋「…」
恋恋「…」
恋恋「うーん、戻れない…」
困り顔の恋恋。
恋恋「これはまずいぞ…。裸の男が教室で発見されたら、即通報される…」
恋恋「蛇神様?」
恋恋「…」
恋恋「肝心な時に助けてくれないな!」
裸で右往左往する恋恋。
恋恋「!」
何かを思いつく恋恋。
恋恋「とりあえず、服を着よう!つむぎちゃんのジャージがあるはず!」
繭「ようやく終わった〜。つむぎ帰ろ〜」
繭の声が教室に向かって近づいてくる。
恋恋「まずい!」
急いでつむぎのジャージを着る恋恋。
繭によって教室の扉が開けられる。そこには誰もいない。開いている窓に気付く繭。
繭「おい、誰だよ、窓開けっぱなしにしたやつ!松島にまた小言言われんだろ!」
つむぎ「先生を呼び捨てにしてるのも、小言言われる原因だよ…」
苦笑いで答えるつむぎ。
坂口「あれ?俺の鞄がない…」
会話をするつむぎと繭の後方で坂口が呟いている。
恋恋(危なかった…)
開いている窓の真下でつむぎの上下ジャージを着た恋恋が身体を屈めて隠れている。
恋恋(これからどうしよ…。いくら学校のジャージ着てても校内歩くと多分目につくよな…)
恋恋(人間と蛇の変身をコントロールできるようにならないと不便だな…)
恋恋(繭ちゃんがもう帰ろうって言ってたな…。先に帰って蛇に戻っておかないと今日の事がバレるな…)
◯下校時間
靴を履き替えて外に出ようとするつむぎと繭。
繭「ん?」
繭が顔を赤ながら待っている1人の少年に気付く。
繭「2組の飯原じゃん」
何かに気付く繭。
繭「あっ、そういうことかぁ〜♪」
繭「つむぎ!私これからバイトだから速攻で帰るわ!また明日!」
ニヤニヤしながらつむぎの返答を待たずに走り去っていく繭。
つむぎ「えっ、繭ちゃん!?行ってしまった…」
飯原「あの…、芥見さん…。今時間いいかな?」
つむぎ「えっ…」
飯原「もしよかったら一緒に帰らない?」
つむぎ「あっ、えーっと…。どちら様ですか?」
飯原「あっ、ごめん!!えっと、下駄箱に手紙を入れさせてもらった2組の飯原伸二と言います…」
飯原は短髪で中肉中背の冴えない感じの男子だが、制服をピシッと着て如何にも真面目そうなタイプ。
つむぎ「あっ、ごめんなさい!飯原さん!手紙書いてくれた人!初めまして!」
飯原「こ、こちらこそ急にごめんなさい!!」
つむぎ(繭ちゃん、飯原君見て、急いで帰ったんだ!初めての人と2人っきりなんて緊張しちゃうじゃん!)
しどろもどろになるつむぎ。
飯原「それで、あの、手紙の返事が聴きたくて…」
つむぎ「あっ、1週間も待たせてしまってごめんなさい!」
飯原「いや、いいんだ…、ここでっていうのもなんだから、歩きながら話さない?あっ、もちろん、よかったらだけど…」
つむぎ「あっ、えーっと…、じゃぁ、一緒に帰ろっか?」
ぱっと表情が明るくなる飯原。
飯原「あ、ありがとう!!」
2人で下校するつむぎと飯原。
◯帰宅路
飯原「芥見さんの家はこっちだよね?」
つむぎ「あっ、うん。私の家知ってるんだね」
飯原「いやっ、その、調べたとか、後をつけたとかじゃなくて!芥見蛇神社はこの町では有名だからさ」
慌てて返答する飯原。
つむぎ「あっ、そっか」
つむぎ(あんな小さな神社でも地域の人にとっては有名なのか、やったねパパ!)
優しい表情でピースをする父を思い浮かべるつむぎ。
*しばらく他愛のない会話を交わすつむぎと飯原。
飯原「俺、家こっちだから…」
つむぎ「そうなんだ。じゃぁ、また明日…」
別れの挨拶をして、飯原に背を向けようとするつむぎ。
飯原「芥見さん!好きです!付き合ってください!」
急に大きな声でつむぎに告白する飯原。深々の頭を下げている。
つむぎ「えっ!あの、その…」
つむぎ(こういう時、どうやって断ればいいかわからないから、繭ちゃんに相談したのに!全然取り合ってくれないからっ!!!)
悪戯な笑みを浮かべる繭を想像して、怒りに震えるつむぎ。
つむぎ「あの、えっと、私まだ飯原君のこと何も知らないから…、えっと、今日初めてあったし…」
しどろもどろになって答えるつむぎ。飯原は頭を下げたまま微動だにせず、つむぎの話を聴いている。
つむぎ「あの友達から…」
飯原「やったぁーーーーっ!!!!ありがとう芥見さん!これからよろしく!」
満面の笑みで走り去っていく飯原。
つむぎ「えっ、えっ、えっ?」
飯原「明日からよろしくね、芥見さん!バイバイ!」
少し、走ってから振り返り、大きく手を振って満面の笑みで別れの挨拶をする飯原。それを呆然と見送るつむぎ。
つむぎ「…。何故彼はあんなに嬉しそうなの…?」
緊張と疑問で混乱するつむぎ。
恋恋「…」
後ろから隠れて一部始終を見ていた恋恋が眉間に皺を寄せ、憎悪の表情を浮かべる。
第三話「蛇を籠むる乙女は、男君より懸想の文を賜るなり」終わり
