彼は、私に乗車券と特急券を渡す。
「あ⋯⋯ありがとうございます!助かりました!」
「いえいえ。あ、そっか。あなた、小銭しか持ってないんでしたね。じゃあ、これ。帰りの汽車賃」
 そう言って、三千円を私に握らせた。
「あの⋯⋯さっきの精算分と、この三千円、耳を揃えて返しますね」
「そんな、いいですよ。大した額ではないし」
「ダメですよ!だって、見ず知らずのあなたにそこまでして頂く理由がないし⋯⋯」
「それを言ったら、あなたこそ、犯罪者呼ばわりされるリスクを背負ってまで、見知らぬ子供を助ける理由はなかったってことになりますよ」
 確かに、私は特に子供が好きなわけでもなく、むしろ苦手なほうだ。
 それでも、あそこで見て見ぬふりは出来なかった。
 親があんなろくでなしだとは想定外だったが、子供は何も悪くない。
「僕、あなたみたいな人って、好きだなぁ」
 唐突にそんなことを言われ、面喰らう。