ミラ「…残念な知らせだ。今朝出発した斥候による報告で、今回のウェーブはコアウェーブと判断された。」

 集まった騎士達がザワザワと騒ぎ出す。一部の騎士達は手の震えで、握っていた剣を落としてしまったようだ。
 一部の者に至っては悲鳴を上げている。

ミラ「コアは種類はデスウルフ。第二回コアウェーブで確認された魔物だな。皆このデスウルフを恐れているようだが、心配は要らない。援軍の要請はもう終わっている。第二前線からも一部増援を約束した。帝国に忠誠を誓う騎士として、このウェーブは試練足り得るだろう。三日後の試練、誇り高き帝国騎士として、皆の奮闘を期待する。」

 デスウルフとは巨大な爪を持った人型の魔物であり、人三人分はある程の体格も特徴だ。
 真っ赤な毛に背中は覆われ、顔は悪魔のそのものだ。
 騎士の鎧なんて一撃で切り裂く攻撃力、強靭かつ大きな体。
 そして、魔法がほとんど効かない。

 ミラさんの話が終わり、騎士達も少し静かになったところに、見覚えのある女性が走ってきた。
 
ニーナ「す、すいませ〜ん!」

ニーナ「帝国救護職員からの報告です。一部撤退は許されるとの報告がありました。死者、負傷者は最小限になるように努めよ、と。わかりましたか〜!」

 帝国が撤退許可!?
 …やっぱり今回のウェーブはそれほどに危険なのだろう。
 それにしても統計的な予測ならコアウェーブは定期的に来るということなんだよな。
 ウェーブは突発的な魔物の襲撃と聞いていたが…まぁいいか。そんな事を考えている暇はないしな。

 あまりネガティブなのも良くないが、もしもの事も考え、シアとマリックにも挨拶しに行こう。

 
マリック「おぉ!レックスか。なにか用事でもあるのか?」

レックス「いや、用事はない。用事がある時に会えないかもしれないからな。」

マリック「随分な言葉だな。不安を煽るのは辞めてくれよな。まぁそういう時もあるか。で、なにを話そうか。」

レックス「そうだな…好きなものとかか?」

マリック「好きなもの、かぁ。昔はよく庭師の仕事の手伝いをしていてね。今も植物の手入れが好きだ。」

レックス「家ではなにか育てていたのか?」

マリック「もちろんだ。俺は薔薇とユーモアだな。」

レックス「そうか。ユーモアか。俺も魔法筋肉があればなと思うよ。」

マリック「そして俺は道化を演じるのも得意だ。…昔から貴族の一言で避けられてきたからかな。植物が好きだったんだ。何も言わないが、何処にもいかないだろう?貴族だからこそ出来た趣味かもしれんが、それくらいしか楽しめなかった。」

レックス「それは…。」

マリック「悪いな。やっぱり俺も不安だ。ほら、今も手先が震えているよ。俺のプライドが許すのなら剣を折って逃げてやりたいくらいだ。」

レックス「貴族ならば剣は何本も折らないと無くならないぞ。」

マリック「ほ!こりゃ上手いことを言うな。ならば頑張る理由は諦める為か。悪くない。感謝するよレックス。人と話したからかな。不安が和らいだよ。」

レックス「どうも。お互い頑張ろうな。」

 去っていくマリックの手は不規則に震えていた。

 次はシアに挨拶か。
 足が重く感じる。最後という言葉が、状況がこれ程に重いなんてな。