騎士長「追加の騎士が到着した。レックス…お前は一旦帝国へ戻れ。」

騎士長「お前に…その報告は任せる。」

 その命令に従い、一旦帰ることになった。

 ──紙片を届けなければ。


 相変わらずの商店に響く大声に、少し苛つく。悪意なんて無いはずなのに、やけにその声が耳につく。
 そんな事を考えるうちに、バーザさんの実家に到着した。小さな屋敷だ。

バーザ母「あら、騎士さん?なにか用でも?」

 覚悟を決め、レックスはバーザの残した紙片を母親に渡す。レックスの手は震えていた。
 
レックス「バーザさんは…。」

バーザ母「…う、嘘よ。なにを言うつもり?…ねぇ!ねぇ!」

 一呼吸おいてから、事実を告げる。

レックス「バーザさんは戦死しました。」

 バーザさんの母親は唖然とした顔で、受け止められているようには見えない。
 そのまま膝から崩れ落ちた。

バーザ母「バーザ…バーザぁぁ!……。あぁ…。」

 宣告し終わり、その場に居るのが辛くなって帰ろうとした。
 バーザさんの母親を背に歩く。

 
 わかってたじゃないか。人が死ぬ場所って。
 知ってたはずだろう戦場だって。
 なんで、なんでだよ。

レックス「クソッ。なんで…」

 あの時、俺が周りを見ていれば。
 あの時、あの時、あの時…。

 宿で吐きそうなほどに泣いた。
 泣いて、バーザの顔を思い出しては泣いて。
 喪失の苦しみを思い知った。

 ずっと後悔して、何もないのに謝って。

 そんな状況で寝られるわけなかった。

 翌朝、基地に帰るために騎士隊詰所に向かった。
 そこでは、しばらく休めと言われてしまった。
 そしておとなしく宿へ戻った。


 もう何日経ったんだろう。
 やっとまともに歩けるようになった。少し休んだだけで体は健康だと訴えている。忌々しいな。
 皆がまってる。
 基地に帰らなければ。

 馬車に揺られながら、今を振り返る。
 本当なら、俺は現実に帰る為に戦っていたはずだ。
 でも何故か、今まで関わった人達。…いわば帝国に滅んで欲しくないと思っている。

 油断すればこうなるし、浮かれている暇なんて無い。
 覚悟しなければ。戦う覚悟を。

 手入れしていた剣は、輝いている。
 剣に映る俺は…テッペイでは無かった。
 ──レックスだった。

 ならば戦う理由は一つ。
 帝国を守ろう。この剣を振るう才能があるのなら。

 この角度の基地の景色は二度目だ。
 絶対に三度目は許されない。