「さっむー!ねえ、この販売機でさ何かあったかいの買って飲も?」
「そうだな」

 放課後。寒さ増す12月。幼馴染みの莉那が販売機に指差し言った。

「じゃあ、じゃんけんして負けた方が奢りね」
「えー…まあいいけど」
「いくよー!じゃんけんぽん!」

 俺はグーを出し、莉那はチョキを出した。

「やりぃ、俺の勝ち~」
「くっそー!言い出しっぺはやっぱダメか~!」

 莉那はそう悔しそうに言い、しぶしぶ販売機の方に向いた。

「千雪はブラックコーヒーだよね」
「まあな」

 ガチャンガチャンと、莉那は飲み物を買うと。

「…莉那?」

 取り出し口から飲み物を取った後も、莉那は何故かこちらに振り向かない。

「どうした?り…」
「はい!これとこれ、どっちがいい?」

 莉那はバッと急に振り向き、両手に握る缶コーヒーを見せた。ていうか…

「どっちも同じブラックコーヒーじゃんか」

 俺がそう言うと、莉那はニヤリと怪しげに微笑んだ。

「ふふん、実はこのコーヒーのどっちかの飲み口に、今私が口つけたんだ~。間違えちゃったら、私と間接キスだよ~♡」
「はあ?な、何それ!?普通に渡せよ!」
「まあまあ、ほら、どれにする?」

 …ごくり。俺は生唾を飲む。俺は前から莉那のことが異性として好きで。だから、莉那にとってこれはちょっとしたからかいなんだろうけど…

「じゃあ、これ…」

 と、左のコーヒーを取ろうとすると、莉那はニヤニヤと笑う。ならばと、右のコーヒーを取ろうとすると、莉那はまたニヤニヤ。

「だーもー!どっちもニヤニヤするな!」
「早く決めて~。冷めちゃうよ」
「莉那のせいだろが!じゃもう右!」

 俺は右のコーヒーを莉那の手から取り、カシュッと開け、ゴクッと一口飲んだ。そして、ちらっと莉那の方を見ると。

「ちぇ~…ハズレ引きやがった」

 ぶうっと、頬を膨らませながら口を尖らせた。寒さのせいか、ほっぺたがリンゴのように赤くなっていた。
 莉那の間接キスじゃない方のコーヒーを選んだ俺は、ほっとしたような、勿体ないことをしたような…何とも言えない気持ちになった。すると。

「千雪!」

 莉那に名前を呼ばれ、俺がその方に振り向くと─

「ん…ぐっ?」

 莉那の両手が俺の頬を挟み…莉那の顔が俺の目の前に迫ってきた…と思ったら、口の中になにか温かいものが流し込まれた。ブラックコーヒーだ。


 …ていうか今、莉那とキス…してる?


 ちゅぱっと、莉那は俺の唇から離れると、小さく。

「千雪とキス…したくなっちゃった♪」

 てへっと、言った。