小さな恋の物語【短編集】


 僕の斜め前に座っている新入社員の小森さんは、小動物のような人だ。

 もちろん天然カワイイ系の、だ。

 小森さんの顔よりも大きいんじゃないかっていう特大サイズの丸いパンがお気に入りらしく、週に三回はランチタイムに食べているのを見かける。

 そのときの幸せそうな顔といったら、見ているこっちまで幸せな気分になれるほどで、僕はメガネの奥からいつもコッソリ観察している。


 普段はホワホワといった擬音がピッタリな小森さんだけど、仕事の電話のときだけは雰囲気が一変する。

「お疲れ様です。経理部の小森です。先週いただいた交際費の申請書なんですけど、不備がありましたので再度提出をお願いします」

『えー、面倒臭いなあ。どうせいつもと同じなんだからさあ、小森さんの方で適当にいい感じに書き直しといてよ』

「それでは困ります。きちんと再提出していただかないと」

『あのさあ、俺忙しいの。そんな書類書いてる時間ないんだってば』

「これは決まりですので。では、明日までによろしくお願いいたします」

 そう言って、有無を言わせず電話を切る。


 背中に物差しでも入っているんじゃないかっていうほど背筋をピンッと伸ばして電話をかけ、終わると一瞬でいつものホワホワに戻るのだ。

 どこにON、OFFスイッチがあるのだろうかと思うほど。