小さな恋の物語【短編集】


 あーもうほんと、ありえない!

 初めてだよ、補習なんて。

 今までもギリッギリだったけど、なんとかクリアしてきたのにぃ!


 でもね、ひとつだけいいことがあったんだ。


 必死に数学のプリントの問題を解くフリをしつつ、チラッと隣の席を見る。


 同じクラスの瀬戸くんが、真剣な表情でスラスラとプリントに答えを書き込んでいっている。


 いつも穏やかで、誰かと話すときは、楽しそうに笑ってて。

 その顔をコッソリ見ているだけで、こっちまでホワホワとした幸せな気持ちになる。


 瀬戸君に初めて会ったのは、入学式の日。

 筆記用具を忘れて困っていたら、後ろの席の瀬戸君がそれに気づいてシャーペンを貸してくれたの。

 初日で、みんな自分のことでいっぱいいっぱいのはずなのに、周囲にまで気を配れる瀬戸君の優しさに、ずっと緊張してこわばっていたわたしの口元も思わず綻んだ。


 多分わたし、あの瞬間から瀬戸君に恋をしてる。

 今は高校二年生の秋だから——1年半くらい、ずっと。


 瀬戸君は、上位成績者としてよく廊下に名前が貼り出されてるから、補習なんて100%縁のない人だと思ってた。

 けど今、瀬戸君がわたしの隣にいる。

 それだけで、思わず口元がニヤけてしまいそう。


 あ、もちろん瀬戸君は赤点だったからってわけじゃないんだけどね。

 インフルエンザにかかっちゃって、この前のテスト、受けられなかったんだって。

 だから、その代わりに補習に参加させられてるみたい。


 ちゃんとテストを受けてたら、瀬戸君が補習に出るなんてこと、絶対ありえないもん。

 これをラッキーと言わずしてなんと言う!?