この雨を虹にしてくれた君へ

 あの席替えから2週間。私のこころは、限界を迎えていた。
 「行ってきます」
 あの日から、いじめが始まった。御心さんやその取り巻きの子にいじめられているのだ。探していた教科書がゴミ箱に入っていたり、下駄箱にゴミや落ち葉が入っていたり。世の中の子どもたちが想像する典型的な「いじめ」そのものだった。
 毎日、登校するのがつらかった。今日もそうだ。
 「次は、彩羽駅〜、彩羽駅〜。」
 でも、親や先生に助けを求めることはしなかった。できなかった。心配させたくないというのはただの言い訳で、本当は、私のちっぽけなプライドが、それを許さないだけだった。
 「夢姫…、おはようっ……。机……、」
 天寧だって、毎日声をかけてくれる。でも、ここ最近は無視している。天寧と関わったら、彼女もひどい目に会わせる、とついこの間脅されてしまったからだ。
 「っ、」
 今日もまた、いじめが始まった。机に書いてあった、「クズ」、「消えろ」、「死ね」。
 私は、前に落書きされたときに持って帰らずにいた除光液に雑巾を浸し、それで机を強く擦る。
 「あははっ、マジかよ!あいつやば〜!」
 ようやくマジックペンの字が消えたかな、と思った頃には、朝休みがほとんど終わっていた。
 「はーい、授業始めるぞー。席につけー。」
 先生の声がやけに大きく響く。そこでようやく、ああ、頭が痛いんだな、と気づく。最近は痛みがわからなくなってきている。殴られ蹴られを繰り返しているからだろうか。しかも、御心さん達は、先生にバレないようにわざと傷が見えないところを殴ったり、痣ができないように蹴ったりしてくる。本当に、女子って、怖い。
 「日直ー、挨拶してくれ―。」
 まずい。本当にまずい。今日の日直は、私だ。こんな状態で挨拶なんて、到底、無理。
 「ん?日直はいないのか?」
 と、その時。
 「い、いないなら、私が代わりにやりますっ」
 天寧が立ち上がった。
 だめ。これじゃ、天寧がいじめられてしまう。天寧は、きっと、私が日直だということに気づいている。そしておそらく、御心さんも。
 「そうか。じゃあ、鈴海、よろしくな。」
 だめ、いやだ、やめて。私です、日直は私です、と言いたいのに、声が出ない。
 「起立、礼。」
 「おはようございます」
 私が固まっている間に、天寧が挨拶してしまった。どうしよう、と頭の中が真っ白になる。
 それでも、私にはどうすることもできなかった。