この雨を虹にしてくれた君へ

 一時間目は、ホームルームで、席替えだった。くじを引いて黒板に目を向ける。私は、一番後ろの列の、左から二番目だった。窓も近くて、心地よい席だ。そして―――
 「あ、」
 右隣が天寧だった。私はこれが一番嬉しい。
 「夢姫!」
 案の定、天寧が小走りでこちらにやってきた。
 「夢姫!隣だね!やった…!」
 「うんっ!やったね!」
 「夢姫、私準備してくる。また後でね!」
 天寧はそういってまた走っていった。これから天寧の隣だと思うと、気持ちが明るくなった。

 ―――刹那。

 「結菜紡さん」

 声をかけられる。誰かと見てみると、
 「御心さん…?」
 御心花恋さんは、可愛くて朗らかで、クラスの中でも人気者の、私とは似ても似つかない女の子。
 「はじめまして、かな?」
 「はい…。」
 やっぱり、初対面は緊張してしまう。
 「あのさ、おねがいがあるんだけど、いいかな。」
 思わず「え…?」と反応してしまう。おねがい?私に?
 「あの、席を、交換してくれないかな?理由は言えないんだけど…」
 唐突な内容にびっくりするも、すぐにそれはそうか、と思い直した。この席替え中の時間に、わざわざ私に話しかけてくるような用件なんて、席の交換くらいしかないだろう。
 ―――でも。
 「ごめん、なさい。あの、私、あま…じゃなくて鈴海さん、と…隣、になれた、から…」
 頑張って、断った。天寧と、隣になりたかったから。
 「…あっそ。じゃあいい。」
 「っ、え…」
 今、一瞬だけど、睨まれたような気がした。すごく冷たくて、鋭くて、刺されてしまいそうな綺麗な瞳に。
 結局、御心さんは、私の右斜め前になった。取り巻きの子に譲ってもらったのだそうだ。でも私は、あのときの瞳をずっと忘れられなかった。御心さんになにかあるんじゃないかって、ずっと気になっていた。でも、見てみぬふりをしていた。

 ―――このときの私は知る由もなかった。このことを、あんなに後悔するなんて。