この雨を虹にしてくれた君へ

 白いカーテンの隙間から、春の陽射しが差し込んでいる。空は見えなかったけれど、柔らかい光が心を包み込んでいた。
 ここは、私の病室ではない。御心さんの病室。御心さんは最近持病が悪化し、同じ病院で入院が始まったという。お見舞いに来てくれた瑠衣が、当分は入院するらしいと言っていた。
 「結菜紡さん…」
 「御心さん、ごめんなさい。」
 私は、すぐに謝った。席を譲らなかった私が悪い。いじめられた原因は、私にある。
 「謝らないで」
 力強い声が聞こえた。もうあのころの御心さんとは違う、と感じた。
 「結菜紡さんが謝る必要はない。私のほうこそ、ごめんなさいっ……!
 いくら嫌だったとはいえ、やっていいことと悪いことがあった…」
 御心さんは、何度も謝ってくれた。そして、なんで席を譲ってほしかったのかも、話してくれた。
 「実はあの頃、結菜紡さんの隣に座っていた子が、好きだったの。
 だから、隣になりたくて。でも今はもう、吹っ切れたから、気にしないで。」
 「そっか…そうだったんだ…」
 御心さんは、ベッドに座ったまま私の恋を応援してくれた。気づかれていたと思うと気恥ずかしかったけれど、御心さんも頑張っているから私も頑張ろう、と思えた日だった。

 あの夜の傷は少しずつ癒えてきていた。手の包帯も薄くなり、指先でペンを持てるようになった。壁の時計の針が、静かに音を刻む。
 そんな中、ドアの向こうからノックの音がした。
 「夢姫、入ってもいい?」
 瑠衣くんの声だった。彼は手に本を持って、少し照れくさそうに立っていた。
 「瑠衣くん。」
 「ん?」
 「なんか、全部、ありがとう。」
 口にした瞬間、胸が熱くなった。
 瑠衣くんは少しだけ目を伏せ、「俺も、こちらこそ、ありがとう。」と言いながら、ベッドのそばに腰を下ろした。静けさが流れる。
 「夢姫。」
 名前を呼ばれるたび、胸が震える。ゆっくりと、彼が私の手を取った。優しく、それでいて震えるような力で。
 「俺、ずっと考えてたんだ。あの時、どうして命がけで助けに来てくれたのかって。」
 「そんなの、考えるまでもないよ。……助けたくて助けただけ。」
 「……一緒だな。」
 瑠衣くんが、少し笑った。そして言葉を続けた。
 「夢姫。俺、夢姫のことが好き。」
 時間が止まったようだった。心臓の音が、自分の耳にまで響いてくる。
 「……私も、瑠衣くんのこと、好き。」
 言葉が溶けていくみたいに、ふっと口からこぼれた。その瞬間、彼が小さく息を呑んで、そっと頭を下げた。
 「ありがとう……ほんとに。」
 指と指が絡む。肩が触れる。何も言わなくても、お互いの気持ちが伝わる。
 カーテンの隙間が風で揺れ、光がふたりを包んだ。その光は、虹色のプリズムを映し出していた。