―――静かだった。何も聞こえない。風の音も、人の声も、すべて遠くで溶けていくようだった。
瞼の裏が、ゆっくりと明るくなる。微かな光が差し込んで、頬に触れた。やさしい温かみがあった。
「……ここ、は……」
声が掠れて、うまく出なかった。喉の奥がひどく乾いている。何かの機械が規則的な音を立てていた。視界がぼやけて、白い天井が見えた。
病室だ――そう気づいた瞬間、記憶が押し寄せた。
炎、息苦しさ、瑠衣くんの声。そして、真っ黒な空。
「……瑠衣くん……」
名前を呼ぶと、胸の奥が痛んだ。指先が動かない。体が重い。それでも必死に顔を横に向ける。そこに、彼がいた。
椅子に座って、俯いたまま眠っていた。彼らしい眠り方だ。額に包帯が巻かれていて、頬には小さな火傷のあと。それでも、ちゃんと息をしている。
よかった……生きてる。涙が勝手にこぼれた。
「ねえ……瑠衣くん……」
その声に、彼がゆっくり目を開けた。
視線が合った瞬間、世界が音を取り戻した。機械の音。外の風の音、すべてが現実に戻ってくる。
「夢姫……!」
椅子から立ち上がる音も乱暴に。彼はすぐにベッドのそばまできて、私の手を強く握った。手のひらの温度が、焼けるほど熱い。それでも離したくなかった。
「気づいたのか……ほんとによかった……!」
声が震えていた。泣きそうに笑うその顔を見て、心がじんわりあたたかく染まっていく。
「……瑠衣くん、けが……大丈夫?」
「俺のことより、夢姫のほうだろ。……一週間も眠ってたんだぞ。」
一週間。その言葉が、時間の重みを連れてくる。夢だと思っていた出来事が、確かに現実だったのだと理解する。
「……怖かったよね。」
彼が小さく呟いた。その声が、あの夜の残響を連れてくる。言葉が、うまく出なかった。ただ、指先で彼の手を強く握り返した。
「なあ、夢姫。」
「ん?」
「ありがとう……助けてくれて。」
彼が少し笑って言った。その笑みがやさしく揺れて、胸が熱くなる。
「じゃあ、これでおあいこだね。」
少しの沈黙のあと、瑠衣くんが静かにうなずいた。その目が、まっすぐこちらを見ていた。それだけで、心が満たされていくようだった。
窓の外には、淡い光が広がっていた。夜が終わったばかりの、ほんのり青い朝。
街の屋根の上を、鳥が一羽、静かに飛んでいく。
「……きれい。」
思わずこぼれた言葉に、瑠衣くんが小さく笑った。
「そうだな。朝って、こんなにも静かなんだな。」
私たちはしばらく、何も言わずに空を見た。その沈黙の中に、すべての想いがあった。
生きていること。それだけで、もう十分だった。
瞼の裏が、ゆっくりと明るくなる。微かな光が差し込んで、頬に触れた。やさしい温かみがあった。
「……ここ、は……」
声が掠れて、うまく出なかった。喉の奥がひどく乾いている。何かの機械が規則的な音を立てていた。視界がぼやけて、白い天井が見えた。
病室だ――そう気づいた瞬間、記憶が押し寄せた。
炎、息苦しさ、瑠衣くんの声。そして、真っ黒な空。
「……瑠衣くん……」
名前を呼ぶと、胸の奥が痛んだ。指先が動かない。体が重い。それでも必死に顔を横に向ける。そこに、彼がいた。
椅子に座って、俯いたまま眠っていた。彼らしい眠り方だ。額に包帯が巻かれていて、頬には小さな火傷のあと。それでも、ちゃんと息をしている。
よかった……生きてる。涙が勝手にこぼれた。
「ねえ……瑠衣くん……」
その声に、彼がゆっくり目を開けた。
視線が合った瞬間、世界が音を取り戻した。機械の音。外の風の音、すべてが現実に戻ってくる。
「夢姫……!」
椅子から立ち上がる音も乱暴に。彼はすぐにベッドのそばまできて、私の手を強く握った。手のひらの温度が、焼けるほど熱い。それでも離したくなかった。
「気づいたのか……ほんとによかった……!」
声が震えていた。泣きそうに笑うその顔を見て、心がじんわりあたたかく染まっていく。
「……瑠衣くん、けが……大丈夫?」
「俺のことより、夢姫のほうだろ。……一週間も眠ってたんだぞ。」
一週間。その言葉が、時間の重みを連れてくる。夢だと思っていた出来事が、確かに現実だったのだと理解する。
「……怖かったよね。」
彼が小さく呟いた。その声が、あの夜の残響を連れてくる。言葉が、うまく出なかった。ただ、指先で彼の手を強く握り返した。
「なあ、夢姫。」
「ん?」
「ありがとう……助けてくれて。」
彼が少し笑って言った。その笑みがやさしく揺れて、胸が熱くなる。
「じゃあ、これでおあいこだね。」
少しの沈黙のあと、瑠衣くんが静かにうなずいた。その目が、まっすぐこちらを見ていた。それだけで、心が満たされていくようだった。
窓の外には、淡い光が広がっていた。夜が終わったばかりの、ほんのり青い朝。
街の屋根の上を、鳥が一羽、静かに飛んでいく。
「……きれい。」
思わずこぼれた言葉に、瑠衣くんが小さく笑った。
「そうだな。朝って、こんなにも静かなんだな。」
私たちはしばらく、何も言わずに空を見た。その沈黙の中に、すべての想いがあった。
生きていること。それだけで、もう十分だった。
