控室。
収録を終えた余韻だけが残り、薄暗い照明の下で蓮は壁際に立ち尽くしていた。
「……な、璃子さん……?」
「逃げないで、蓮。」
ヒールの音が静寂を割る。
近づくたびに空気が張り詰め、蓮の背中は壁に押しつけられた。
「ねぇ、覚えてるでしょ……? あの夜、私の膝で泣いたあなたを。」
喉の奥で呼吸がつまる。
視界が滲み、封じ込めてきた記憶がじわりと浮かぶ。
夜の控室。
「……行くなよ……俺のそばにいてくれよ……」
涙を隠すこともできず、彼女の手を必死に求めた夜。
その温度が、まだ指先に残っている気がした。
「そして……その夜、あなたは私を――」
璃子が蓮のすぐ近くまで身を寄せた。
香水の匂い、吐息、揺れる睫毛。
シャツ越しに触れる手の温度に、心臓が乱れる。
(……だめだ……俺には優香がいる……なのに――)
璃子の唇が触れそうになった、その瞬間。
ガチャリ。
「――やめて!!」
控室のドアが弾けるように開き、優香が立っていた。
涙をにじませながらも、その瞳には強い意志が宿っている。
「やめてください……大地くんに……そんなこと、しないで……!」
蓮の胸に置かれていた璃子の手が離れる。
そして、意味ありげな笑み。
「……あなたが、彼の“今”なのね。」
優香は一歩前へ進んだ。
揺れているのに、折れない声だった。
「……大地くん、帰ろう。」
泣きそうな瞳なのに、その声だけはまっすぐで、揺らがなかった。
蓮は息を呑み、目を伏せる。
(……優香……)
璃子は背を向けた。
「また会いましょう、蓮。」
扉が閉まる音だけが残り、静けさが戻る。
蓮が掠れた声で呟く。
「……ごめん……」
優香は何も言わず、そっと彼の手を取った。
「……帰ろう。……一緒に。」
ふたりの影が重なり、控室の空気がゆっくりと溶けていった。
収録を終えた余韻だけが残り、薄暗い照明の下で蓮は壁際に立ち尽くしていた。
「……な、璃子さん……?」
「逃げないで、蓮。」
ヒールの音が静寂を割る。
近づくたびに空気が張り詰め、蓮の背中は壁に押しつけられた。
「ねぇ、覚えてるでしょ……? あの夜、私の膝で泣いたあなたを。」
喉の奥で呼吸がつまる。
視界が滲み、封じ込めてきた記憶がじわりと浮かぶ。
夜の控室。
「……行くなよ……俺のそばにいてくれよ……」
涙を隠すこともできず、彼女の手を必死に求めた夜。
その温度が、まだ指先に残っている気がした。
「そして……その夜、あなたは私を――」
璃子が蓮のすぐ近くまで身を寄せた。
香水の匂い、吐息、揺れる睫毛。
シャツ越しに触れる手の温度に、心臓が乱れる。
(……だめだ……俺には優香がいる……なのに――)
璃子の唇が触れそうになった、その瞬間。
ガチャリ。
「――やめて!!」
控室のドアが弾けるように開き、優香が立っていた。
涙をにじませながらも、その瞳には強い意志が宿っている。
「やめてください……大地くんに……そんなこと、しないで……!」
蓮の胸に置かれていた璃子の手が離れる。
そして、意味ありげな笑み。
「……あなたが、彼の“今”なのね。」
優香は一歩前へ進んだ。
揺れているのに、折れない声だった。
「……大地くん、帰ろう。」
泣きそうな瞳なのに、その声だけはまっすぐで、揺らがなかった。
蓮は息を呑み、目を伏せる。
(……優香……)
璃子は背を向けた。
「また会いましょう、蓮。」
扉が閉まる音だけが残り、静けさが戻る。
蓮が掠れた声で呟く。
「……ごめん……」
優香は何も言わず、そっと彼の手を取った。
「……帰ろう。……一緒に。」
ふたりの影が重なり、控室の空気がゆっくりと溶けていった。


