控室の隅。
遠くでスタッフの笑い声や機材を片付ける音が、ぼんやりと響いている。
優香は椅子に腰を下ろし、膝に抱えた荷物の上に視線を落とした。
璃子と別れた後の余韻が、まだ胸の奥に残っている。
冷たい膜のように胸を覆い、喉の奥まで重くしていく感覚が消えなかった。
(……あの言い方、なんだったんだろう……)
『あなたが知る必要はないわ。彼は今、あなたの大地くんなんでしょう?』
軽い口調だったはずなのに、その言葉だけがずっと耳の奥に張りついて離れない。
(……“知る必要はない”ってことは……
やっぱり、私の知らない“何か”があるってことだよね……)
不安を自覚した瞬間、優香は唇をきゅっと噛んだ。
鏡の中に浮かぶ璃子の笑顔を思い出す。
綺麗だった。けれど――綺麗すぎて、怖かった。
優しげな微笑みの奥、ほんの一瞬だけ影が差した。
(……璃子さんは知ってる。
大地くんの“過去”を……それとも、“本当”を……?)
バッグの中の手帳を無意識に握りしめる。
汗ばんだ指先が、紙の冷たさをはっきりと感じていた。
(……でも……私は、もう“知らないままでいたい”なんて思えない。
――だって、私……大地くんのこと、本当に好きだから)
ただ笑っていられるなら、それでよかった。
でも――知らなかったせいで彼をまた苦しめてしまうのは、もっと怖い。
触れてはいけない場所に、踏み込もうとしている。
そのことが、自分の中でわずかな“裏切り”のように感じられて、胸が小さく軋む。
(……怖い。でも、それでも……知りたい。
あなたのすべてを)
遠くのスタジオでは、まだライトが点いていた。
その揺れる光を、優香はまっすぐに見つめる。
(……たとえ、どんな真実でも……私は、あなたの味方だから。
今度こそ、ちゃんと受け止めたい)
ゆっくりと立ち上がる。
膝の上の荷物を抱き直し、胸の奥のざわつきを吸い込むように、深く呼吸をひとつ。
(璃子さん……あなたはいったい、何を知ってるの?
あの瞳の奥に隠していたものは……なんなの……?)
控室のざわめきの中で、優香の胸にだけ、消えない問いが静かに残っていた。
遠くでスタッフの笑い声や機材を片付ける音が、ぼんやりと響いている。
優香は椅子に腰を下ろし、膝に抱えた荷物の上に視線を落とした。
璃子と別れた後の余韻が、まだ胸の奥に残っている。
冷たい膜のように胸を覆い、喉の奥まで重くしていく感覚が消えなかった。
(……あの言い方、なんだったんだろう……)
『あなたが知る必要はないわ。彼は今、あなたの大地くんなんでしょう?』
軽い口調だったはずなのに、その言葉だけがずっと耳の奥に張りついて離れない。
(……“知る必要はない”ってことは……
やっぱり、私の知らない“何か”があるってことだよね……)
不安を自覚した瞬間、優香は唇をきゅっと噛んだ。
鏡の中に浮かぶ璃子の笑顔を思い出す。
綺麗だった。けれど――綺麗すぎて、怖かった。
優しげな微笑みの奥、ほんの一瞬だけ影が差した。
(……璃子さんは知ってる。
大地くんの“過去”を……それとも、“本当”を……?)
バッグの中の手帳を無意識に握りしめる。
汗ばんだ指先が、紙の冷たさをはっきりと感じていた。
(……でも……私は、もう“知らないままでいたい”なんて思えない。
――だって、私……大地くんのこと、本当に好きだから)
ただ笑っていられるなら、それでよかった。
でも――知らなかったせいで彼をまた苦しめてしまうのは、もっと怖い。
触れてはいけない場所に、踏み込もうとしている。
そのことが、自分の中でわずかな“裏切り”のように感じられて、胸が小さく軋む。
(……怖い。でも、それでも……知りたい。
あなたのすべてを)
遠くのスタジオでは、まだライトが点いていた。
その揺れる光を、優香はまっすぐに見つめる。
(……たとえ、どんな真実でも……私は、あなたの味方だから。
今度こそ、ちゃんと受け止めたい)
ゆっくりと立ち上がる。
膝の上の荷物を抱き直し、胸の奥のざわつきを吸い込むように、深く呼吸をひとつ。
(璃子さん……あなたはいったい、何を知ってるの?
あの瞳の奥に隠していたものは……なんなの……?)
控室のざわめきの中で、優香の胸にだけ、消えない問いが静かに残っていた。


