拍手と笑い声がフェードアウトしていくスタジオ。
控室へ向かう廊下は、さっきまでの華やかさが嘘のように静まり返っていた。
ライトの熱がまだ頬に残るのに、空調の冷気が背中を撫でていく。
蓮はゆっくり歩き、控室のドアノブに手をかけた。
そのとき――
「……やっぱり、あなたよね」
背後から落とされた静かな声に、心臓がひときわ強く跳ねた。
振り返ると、廊下の照明の下に立つ璃子がいた。
さっきのテレビ用の笑顔は一切なく、素のまなざしだけが蓮を真っ直ぐ射抜いている。
「何のことですか」
低い声で返す。
握る指先に、わずかに力がこもった。
璃子は一歩ずつ、間合いを詰めてくる。
ヒールの音が乾いた廊下に落ちるたび、空気が硬く締まっていく。
「“宅麻大地”なんて名前……あなたには似合わない」
その言葉は、まるで刃のように胸を刺した。
「あなたはもっと、不器用で……でも優しい人だった」
息が浅くなる。喉が冷たくつまる。
「……やめてください」
絞った声は、震えを隠せない。
璃子のまつ毛がかすかに揺れた。
「どうして? ねぇ……私のこと、覚えてる?」
さらに一歩近づく。
「泣きそうになって、私の肩に顔を埋めた、あの夜のあなたを」
――汗で濡れたレッスン室。
――『泣きたいなら泣いていい。私だけが知ってればいいから』
――肩に触れた温度、指先の震え。
「……やめろ」
蓮は額に手を押し当て、一歩前へ踏み出していた。
胸が熱く疼く。握った拳がかすかに震える。
璃子はその変化を見逃さず、小さく息をのむ。
そして、ふっと柔らかく微笑んだ。
「そう。その顔。やっぱり、私の蓮だわ」
(俺は……宅麻大地だ。優香がそばにいてくれる。
それなのに――なんで……こんなに胸が痛い)
廊下には誰もいない。
なのに、呼吸の音だけがやけに大きく響いていた。
控室へ向かう廊下は、さっきまでの華やかさが嘘のように静まり返っていた。
ライトの熱がまだ頬に残るのに、空調の冷気が背中を撫でていく。
蓮はゆっくり歩き、控室のドアノブに手をかけた。
そのとき――
「……やっぱり、あなたよね」
背後から落とされた静かな声に、心臓がひときわ強く跳ねた。
振り返ると、廊下の照明の下に立つ璃子がいた。
さっきのテレビ用の笑顔は一切なく、素のまなざしだけが蓮を真っ直ぐ射抜いている。
「何のことですか」
低い声で返す。
握る指先に、わずかに力がこもった。
璃子は一歩ずつ、間合いを詰めてくる。
ヒールの音が乾いた廊下に落ちるたび、空気が硬く締まっていく。
「“宅麻大地”なんて名前……あなたには似合わない」
その言葉は、まるで刃のように胸を刺した。
「あなたはもっと、不器用で……でも優しい人だった」
息が浅くなる。喉が冷たくつまる。
「……やめてください」
絞った声は、震えを隠せない。
璃子のまつ毛がかすかに揺れた。
「どうして? ねぇ……私のこと、覚えてる?」
さらに一歩近づく。
「泣きそうになって、私の肩に顔を埋めた、あの夜のあなたを」
――汗で濡れたレッスン室。
――『泣きたいなら泣いていい。私だけが知ってればいいから』
――肩に触れた温度、指先の震え。
「……やめろ」
蓮は額に手を押し当て、一歩前へ踏み出していた。
胸が熱く疼く。握った拳がかすかに震える。
璃子はその変化を見逃さず、小さく息をのむ。
そして、ふっと柔らかく微笑んだ。
「そう。その顔。やっぱり、私の蓮だわ」
(俺は……宅麻大地だ。優香がそばにいてくれる。
それなのに――なんで……こんなに胸が痛い)
廊下には誰もいない。
なのに、呼吸の音だけがやけに大きく響いていた。


