仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

──まぶたの奥が、やわらかな光に包まれる。
ゆっくりと目を開けると、朝の静けさが部屋を優しく満たしていた。
薄いカーテン越しに、淡い陽が差し込む。光が白いシーツの上にやわらかく溶けていく。

隣を見る。
まだ眠っている蓮が、穏やかな呼吸を繰り返していた。
その胸が上下するたび、まるで波のように心が落ち着いていく。

(……夢じゃなかったんだ)

昨夜のぬくもり、優しい声、触れ合った指先――
全部が、ちゃんとここにある。
胸の奥がじんわりとあたたかくなる。

(こんなに幸せな朝がくるなんて、思わなかった)

静かに微笑みながら、優香は蓮の寝顔を見つめた。
眉間にしわは寄っていない。
悪い夢も見ていないみたいで……それが、何より嬉しかった。

そっと手を伸ばしかけて、ためらって、そしてほんの少しだけ彼の髪に触れる。
さらりとしたその感触に、胸がふわっと揺れた。

(あの子がやっと誰かの隣で眠れた。それだけで、こんなにも幸せになれるなんて)

胸に手を当てて、深く息をつく。

(私が守りたいのは、“宅麻大地”じゃない。
 あの子の素顔――“蓮くん”なんだ)

そう思った瞬間、胸の奥にひとつの覚悟が芽生えた。

(この秘密は、誰にも言わない。
 たとえ誤解されても――あの子が安心して眠れる場所を、私が守る)

(“宅麻大地”の仮面の下にあるもの……
 私だけは、見逃さずにいたいから)

蓮の髪をそっと整えながら、優香は微笑んだ。
「……ありがとう。こんな私に、心をくれて」

その言葉は、誰にも届かない小さな声。

(ねえ、蓮くん。
 私、もう“いい子”じゃなくていいんだよね?
 あなたを守れるなら、どんな自分にだってなれる)

もう一度、隣に眠る寝顔を見つめる。
柔らかな光に包まれたその横顔が、胸いっぱいに愛おしい。

(今日は……ちゃんと笑って。あなたのその声で)

──静かな朝の光の中、優香はそっとまぶたを閉じた。