仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

 優香の寝息が、部屋に静かに満ちていた。
 カーテンの隙間から差し込む月光が、白いシーツをやわらかく照らす。

 蓮はベッドの端に腰を下ろし、優香の髪にそっと指を這わせた。
 さらりとした髪の感触。そのぬくもりに触れるたび、胸の奥がじんわりと満たされていく。

(……俺、本当に、ここにいるんだな)

「……不思議だな」
 ぽつりとこぼれた声は、夜に静かに溶けていった。

「俺、ずっと……誰かに触れるのが怖かったのに」

 誰かを信じることも、必要とされることも。
 与えられたものが、いつか消えてしまう気がして――そのたびに、心が怯えていた。

 でも。

「優香は、違った」

 名前も、過去も、何もない“俺”を、ちゃんと“俺”として見てくれた。
 この世界に確かに自分がいると、そう思わせてくれるような眼差しで。

「……ありがとう」

 その言葉は、息のように小さく零れた。
 蓮は優香の髪に、そっと口づけを落とす。
 眠る優香の横顔は、どこまでも穏やかで、優しかった。

(……こんな夜が、あるなんて)

 胸の奥から込み上げる愛しさに、思わず目を細める。

「俺、もう……逃げたくないよ」

 今はただ、この時間が壊れないことを願う。
 この腕の中のぬくもりこそが、蓮にとっての“本物”だった。

「……優香」

 眠る彼女の頬にそっと触れ、かすれる声で囁く。

「絶対、守るから」

 月明かりがふたりをやさしく包み込む。
 夜は深く、更けていく――
 互いの存在が、穏やかに、確かに、魂に溶けていくように。