仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

 優香の肩に額を押し当てていた蓮が、
 ゆっくりと顔を上げた。

「……なあ」

 かすれた声。
 月明かりの中で目が合う。優香の瞳に、揺れる光。

「今の俺ってさ……ちゃんと“俺”に見える?」

 優香はまっすぐ頷いた。

「うん。見えてるよ。目も、声も、全部……“蓮くん”だってわかる」

 それを聞いた蓮は、小さく息を吸い、震える手で優香の頬に触れた。

「だったら……この気持ちも、本物にしていい?」

 優香は目を伏せることなく、その手に自分の手を重ねた。

「うん。……私も、そう思ってた」

 ──静かに距離が縮まる。
 月と波音だけが見守る世界で、唇と唇がそっと触れ合った。

 時間が止まったような感覚。
 触れたその瞬間、ふたりの中の何かがほどけていく。
 ずっと堪えていた痛みや、隠していた寂しさ。
 名前も知らないまま感じていた優しさと、もどかしい愛しさ。

「……好きだよ、優香」

 かすれたような声で、蓮が言う。
 優香は目を潤ませながら、静かに微笑んだ。

「私も……蓮くんが、好きだよ」

 夜が、そっとふたりを包み込む。
 優香の指が蓮の背に回され、蓮もまた彼女を抱き寄せた。
 まるで、心の奥にある傷を抱きしめ合うように。

 ふたりは、深く結ばれていく。
 優しさが重なり合う夜の中で、
 互いの温もりを確かめながら──
 “愛された”という初めての記憶が、静かに胸に刻まれていった。