仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

 優香は、そっと握られた蓮の手を見つめた。
 指先から伝わる小さな震えが、胸の奥にやさしく染みていく。

 ――こんなに勇気を出して、今、ここにいるんだね。

 胸の奥がじんわりと熱くなって、呼吸が少しだけ震えた。

「……蓮くん」

 名前を呼んだその声に、蓮の瞳がわずかに揺れる。
 その目は、不安を湛えながらも、まっすぐに彼女を見つめていた。

「私は……蓮くんの笑った顔が、すごく好きだった。
 でも……もっと好きなのは――」

 言葉を探しながら、優香はふっと微笑む。

「蓮くんの、不器用だけど、誰よりも真っ直ぐで……
 ちゃんと誰かを想ってる、その心が、好きなの」

 月明かりが、彼の横顔をやわらかく照らす。
 その瞳が潤んだように見えて、優香はそっと、その手を握り返した。

「好きだよ。私は、蓮くんが好き。
 どんな名前でも、どんな過去でも、関係ない」

 蓮は唇を噛み、一瞬視線をそらす。

 ――俺なんかが、こんなこと言われていいのかよ……。

 けれどその表情には、確かな安堵と、にじむような幸福が浮かんでいた。

 もう一度、彼が優香を見つめる。
 夜風がふたりの髪を揺らし、波の音が遠くでやさしく砕けていた。

 やがて、蓮はそっと顔を近づけ、低く囁く。

「……キスしていい?」

 その小さな声に、優香は一瞬だけ目を見開いた。
 潮風が頬をかすめる。
 その温度を感じながら、彼女はやさしく微笑み、静かに瞳を閉じた。

「……うん」

 ためらいのないその返事に、蓮の唇がそっと触れる。

 短くて、柔らかくて、あたたかい――
 夜の海に溶けるように、ふたりの影が、そっとひとつになった。