明るい照明が、目の奥に焼きつく。
絶え間なく焚かれるフラッシュに、耳を打つシャッター音とざわめきが重なる。
 
 壇上。その中央に、宅麻大地が立っていた。
 柔らかいブラウンの髪がライトを受けてきらりと光り、磨き抜かれた衣装は爽やかな王子様を思わせる。
 すっと通った鼻筋、優しい笑み。右手を軽く振るたび、会場の前列から小さな悲鳴のような歓声が漏れた。

 事務所は、すでに世間にこう告げていた。
「宅麻大地は、療養と海外での長期活動を経て、今回ついに日本で本格再始動する」
 映像や過去の写真も編集され、雑誌やネットニュースは「海外のファンを魅了した彼が帰ってきた」と大々的に取り上げていた。

 記者たちはその公式情報を信じ、まぶしいライトの下で彼の言葉を待っていた。

「お待たせしました。本日より活動を再開する、宅麻大地です。応援、よろしくお願いします」

 用意された言葉を、噛まないように丁寧に話す。
 微笑み、目線をカメラに向ける。まるで機械のように滑らかで、不自然のない動作。
 完璧なアイドルの立ち居振る舞いだった。

 ――なのに、胸の奥が少しだけ痛んだ。

 記者たちが次々に声を上げる。
「海外での活動はいかがでしたか?」
「突然の日本復帰、驚きました! きっかけは?」
「新しい“宅麻大地”として、これから目指すところは?」

 大地は一つひとつに、用意された答えを返していく。

「現地での経験は、僕にとって大きな財産になりました」
「療養とトレーニングを兼ねて、自分を見つめ直していました」
「新しい自分として、もっと多くの人に夢を届けたいと思っています」

 そのたびに、会場には拍手と歓声が起こった。
「やっぱり大地くんだ」「復帰してくれてよかった」――そんな声が、耳に入る。

 ――なのに、心の奥が空っぽだった。

 前列で泣きながらうちわを振るファンの姿が、視界の端にぼやけて映る。
 (誰が、こんなセリフを俺に言わせたんだろう)
(……これって、本当に“自分の”夢だったか?)

 ほんの一瞬、心が揺らいだ。

 だが、壇上の端に立つ男――三島が視線を向けてくる。
 目が合った瞬間、大地の背筋に冷たいものが走った。

 軽く顎を引いただけの三島。その一挙手一投足が、大地にとっては絶対の指示だった。
 
 「お前は“宅麻大地”だろう?」
 ――そう言われた気がして、大地はまた、笑顔を作った。

「……応援、ありがとうございます。僕は、これからも、皆さんに夢と笑顔を届けられる存在になります」

 それが“正しい答え”なのだから。
 それが、“自分の役割”なのだから。

 拍手の波が、すべてをかき消していった。