仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

 蓮の手を握ったまま、優香は小さく呟いた。
 声はかすかに震えていたけれど、その響きはまっすぐだった。

「……大地くんが、誰だったとしても、私は……あなたを大切にしたいって、思ってる」

 蓮は目を伏せる。
 けれど、その手だけは、離そうとしなかった。

「……俺なんかを?」

 自分でも驚いたように、まばたきをする。
 その声には、かすかな希望が混じっていた。

「うん、そう。……“なんか”じゃないよ」

 優香の声は穏やかで、けれどどこか切実だった。

「だって、あなたが笑ってくれた時――
 “あなた自身”がここにいるって、そう感じたの。
 傷ついても、痛みがあっても、生きている人なんだって」

 蓮は少しだけ目を見開いた。
 優香の瞳は、迷いなくまっすぐに、自分を見ている。

「……俺……」

 かすれた声が喉の奥で震える。
 けれど、それは怒りでも、悲しみでもなかった。

「……本当は、ずっと誰かに、こう言ってほしかったのかもな……」

 ふいに、優香の肩に頭を預けるようにして、蓮はそっと身を寄せた。
 その耳元で、静かに呟く。

「……俺が、俺でも……ここにいても、いいのかな」

「もちろんだよ」

 優香は迷いなく答える。
 そしてそのまま、彼の肩にそっと手を回した。

「私は、大地くんが何者でも……心から、大切にしたいと思ってるの。
 だから……私は、あなたの味方だよ」

 波音が、やさしく耳をくすぐる。
 ふたりはそのまま、言葉のいらない静かな時間に、身をゆだねていった。

 ――そのぬくもりだけが、世界のすべてを肯定してくれている気がした。