照明があたたかく降り注ぎ、スタジオの空気は熱を帯びていた。
機材の金属がわずかに焦げたような匂いを放ち、カメラの回転音とスタッフの足音が交錯する。
モニターには、宅麻大地の完璧な笑顔が映っていた。
台詞の間合い、感情を込めた声、計算された視線――どれも非の打ちどころがない。
けれど、優香の胸の奥がふと疼いた。
(……どこにいるの、あの夜のあなたは?)
笑っているのに、どこか深い場所で誰とも繋がっていないように見える瞳。
抜け殻のように、ただ役だけがそこに立っているようだった。
「……カット!」
監督の声が響き、張りつめていた空気が一気に緩む。
大地――いや、蓮はスタッフに笑顔で礼を言いながら、ふと横顔を曇らせた。
「お疲れさまです、大地さん」
「……ああ」
短い返事。それでも優香は、一歩だけ踏み込む。
「昨日の大地さん、少し……いつもと違って見えました」
その瞬間、彼の目がわずかに鋭くなった。
「……何の話だよ」
低く、刺すような声。優香の胸がひやりと冷える。
「ごめんなさい。気のせいだったら……」
「そういうの、やめろよ」
蓮が一歩近づく。照明の熱が、肌にじわりと刺さる。
「誰にでも優しくしてんの? 俺にも、あの時の“俺”にもさ」
戸惑いの中で、それでも優香はそっと笑みを浮かべた。
「そんなことないですよ。私は……あなたにしか、そんなふうに声をかけてません」
一拍、空気がやわらいだ。
「私、いつでもあなたの味方ですから。つらい時は……甘えてもいいですよ?」
少し間をおいて、微笑みながら。
「……なんて、冗談ですけどね」
そう告げて、優香は静かに背を向けた。
蓮はその背中を見つめながら、汗ばんだ手をポケットの中で強く握る。
(……冗談、か。そんな顔で言うなよ……)
***
現場の喧騒から離れ、夕暮れの河川敷。
人影のない土手の上、蓮はしゃがみ込み、小石を指先ではじいて川へ投げていた。
夕陽が、川面と彼の影を淡く染める。
「……冗談、ねぇ……だったら、あんな顔で言うなよ……」
ぽつりとつぶやき、またひとつ小石を投げる。
胸の奥がざわついて、言葉にならない感情が押し寄せてくる。
そのとき――背後から足音。
「……ひとりで何してんの?」
優香の声に、蓮の肩がびくりと跳ねた。
立ち上がろうとしてバランスを崩し、変な姿勢のまま固まる。
優香が思わず吹き出した。
「もしかして……さっきのこと、考えてたりして……?」
冗談めかした声に、蓮の耳がじわりと赤く染まる。
「バ、バカかお前……! 誰が、そんな……っ」
顔をそむけ、耳まで真っ赤に染めながら、小石をやや強めに放った。
「図星だった?」
優香がにこにこと笑いながら、彼の隣に腰を下ろす。
肩が触れそうな距離。蓮はその近さに、少し息をのんだ。
夕陽がふたりの影を長く引き、あたたかな風が静かに流れる。
「……言っとくけど、別にあんたのこと信じてるわけじゃねーからな」
ぼそりと呟いた声に、優香はそっと微笑む。
「うん。でも……本当は信じてくれたんだよね」
ふたりの間に言葉はなく、ただ川面の光が揺れていた。
胸の奥で張り詰めていた何かが、静かにほどけていく――
そんな感覚が、蓮のなかに流れ込んできた。
機材の金属がわずかに焦げたような匂いを放ち、カメラの回転音とスタッフの足音が交錯する。
モニターには、宅麻大地の完璧な笑顔が映っていた。
台詞の間合い、感情を込めた声、計算された視線――どれも非の打ちどころがない。
けれど、優香の胸の奥がふと疼いた。
(……どこにいるの、あの夜のあなたは?)
笑っているのに、どこか深い場所で誰とも繋がっていないように見える瞳。
抜け殻のように、ただ役だけがそこに立っているようだった。
「……カット!」
監督の声が響き、張りつめていた空気が一気に緩む。
大地――いや、蓮はスタッフに笑顔で礼を言いながら、ふと横顔を曇らせた。
「お疲れさまです、大地さん」
「……ああ」
短い返事。それでも優香は、一歩だけ踏み込む。
「昨日の大地さん、少し……いつもと違って見えました」
その瞬間、彼の目がわずかに鋭くなった。
「……何の話だよ」
低く、刺すような声。優香の胸がひやりと冷える。
「ごめんなさい。気のせいだったら……」
「そういうの、やめろよ」
蓮が一歩近づく。照明の熱が、肌にじわりと刺さる。
「誰にでも優しくしてんの? 俺にも、あの時の“俺”にもさ」
戸惑いの中で、それでも優香はそっと笑みを浮かべた。
「そんなことないですよ。私は……あなたにしか、そんなふうに声をかけてません」
一拍、空気がやわらいだ。
「私、いつでもあなたの味方ですから。つらい時は……甘えてもいいですよ?」
少し間をおいて、微笑みながら。
「……なんて、冗談ですけどね」
そう告げて、優香は静かに背を向けた。
蓮はその背中を見つめながら、汗ばんだ手をポケットの中で強く握る。
(……冗談、か。そんな顔で言うなよ……)
***
現場の喧騒から離れ、夕暮れの河川敷。
人影のない土手の上、蓮はしゃがみ込み、小石を指先ではじいて川へ投げていた。
夕陽が、川面と彼の影を淡く染める。
「……冗談、ねぇ……だったら、あんな顔で言うなよ……」
ぽつりとつぶやき、またひとつ小石を投げる。
胸の奥がざわついて、言葉にならない感情が押し寄せてくる。
そのとき――背後から足音。
「……ひとりで何してんの?」
優香の声に、蓮の肩がびくりと跳ねた。
立ち上がろうとしてバランスを崩し、変な姿勢のまま固まる。
優香が思わず吹き出した。
「もしかして……さっきのこと、考えてたりして……?」
冗談めかした声に、蓮の耳がじわりと赤く染まる。
「バ、バカかお前……! 誰が、そんな……っ」
顔をそむけ、耳まで真っ赤に染めながら、小石をやや強めに放った。
「図星だった?」
優香がにこにこと笑いながら、彼の隣に腰を下ろす。
肩が触れそうな距離。蓮はその近さに、少し息をのんだ。
夕陽がふたりの影を長く引き、あたたかな風が静かに流れる。
「……言っとくけど、別にあんたのこと信じてるわけじゃねーからな」
ぼそりと呟いた声に、優香はそっと微笑む。
「うん。でも……本当は信じてくれたんだよね」
ふたりの間に言葉はなく、ただ川面の光が揺れていた。
胸の奥で張り詰めていた何かが、静かにほどけていく――
そんな感覚が、蓮のなかに流れ込んできた。


