交差点。
ヘッドライトが雨粒を反射させ、無数の白い線が闇の中を切り裂いていた。
――その光の中に、ひとつの影があった。
バイクに跨る青年。
ヘルメットの隙間から覗く横顔は、まだ二十歳そこそこのあどけなさが残っている。
濡れた黒髪が頬に貼りつき、細身の体は夜の寒さに小さく震えていた。
ステージで輝くはずのその顔――人気急上昇中のアイドル、黒瀬蓮が、こんな夜道でひとりきりだった。
「嘘だろ……なんで、こんなところに……!」
ハンドルを握る三島は、瞬間的にブレーキを踏み込んだ。
しかし、遅すぎた。
濡れたアスファルトの上で、タイヤが悲鳴を上げて空転する。
車体がぶれる。視界が揺れる。
雨とライトが入り混じり、世界が歪んだ。
「……くそっ!」
鈍い衝撃。
フロントガラスに何かが叩きつけられる音。
バイクが弾かれ、青年の身体が宙を舞った。
雨の中に放り出された彼が、アスファルトに叩きつけられる。
その衝撃の音が、やけに鮮明に耳の奥へ突き刺さった。
世界が止まった。
ただ、雨の音とエンジンのうなりだけが残る。
三島はハンドルを握ったまま、息を呑んだ。
指先が白くなるほどハンドルを強く握りしめ、胸の奥が熱く震える。
彼は、震える手でドアを押し開けた。
冷たい雨粒が頬を打つ。高価なスーツの裾が、濡れた路面で重く張りついた。
闇の中へ駆け寄る。
倒れている青年のもとへ。
「……おい! 蓮……! 黒瀬……!」
三島はその身体を抱き起こした。
黒いライダースーツが血で濡れている。
額の髪が泥と雨でぐしゃぐしゃに乱れていた。
閉じた瞳は動かない。だが、耳を近づけると――かすかに呼吸の音がある。
その胸が、わずかに上下しているのを見て、胸の奥で何かが崩れ落ちた。
――生きてる。生きてる……。
しかし、次の瞬間。
三島の視線は、周囲を素早く彷徨わせた。
人影はない。カメラも、スマホを構える誰かもいない。
(このまま通報すれば……俺の立場は終わる。事務所も、野望も、すべて崩れる)
呼吸が荒くなる。胸が締めつけられる。
混乱と恐怖が入り混じり、頭の中で言葉が千々に散っていく。
三島は強く歯を食いしばり、蓮の身体を抱え上げた。
濡れた髪が三島の頬をかすめ、血の匂いが鼻をつく。
「……大丈夫だ……助けてやる……」
自分に言い聞かせるように呟くと、
彼は誰もいない夜の闇へと歩き出した。
ヘッドライトが雨粒を反射させ、無数の白い線が闇の中を切り裂いていた。
――その光の中に、ひとつの影があった。
バイクに跨る青年。
ヘルメットの隙間から覗く横顔は、まだ二十歳そこそこのあどけなさが残っている。
濡れた黒髪が頬に貼りつき、細身の体は夜の寒さに小さく震えていた。
ステージで輝くはずのその顔――人気急上昇中のアイドル、黒瀬蓮が、こんな夜道でひとりきりだった。
「嘘だろ……なんで、こんなところに……!」
ハンドルを握る三島は、瞬間的にブレーキを踏み込んだ。
しかし、遅すぎた。
濡れたアスファルトの上で、タイヤが悲鳴を上げて空転する。
車体がぶれる。視界が揺れる。
雨とライトが入り混じり、世界が歪んだ。
「……くそっ!」
鈍い衝撃。
フロントガラスに何かが叩きつけられる音。
バイクが弾かれ、青年の身体が宙を舞った。
雨の中に放り出された彼が、アスファルトに叩きつけられる。
その衝撃の音が、やけに鮮明に耳の奥へ突き刺さった。
世界が止まった。
ただ、雨の音とエンジンのうなりだけが残る。
三島はハンドルを握ったまま、息を呑んだ。
指先が白くなるほどハンドルを強く握りしめ、胸の奥が熱く震える。
彼は、震える手でドアを押し開けた。
冷たい雨粒が頬を打つ。高価なスーツの裾が、濡れた路面で重く張りついた。
闇の中へ駆け寄る。
倒れている青年のもとへ。
「……おい! 蓮……! 黒瀬……!」
三島はその身体を抱き起こした。
黒いライダースーツが血で濡れている。
額の髪が泥と雨でぐしゃぐしゃに乱れていた。
閉じた瞳は動かない。だが、耳を近づけると――かすかに呼吸の音がある。
その胸が、わずかに上下しているのを見て、胸の奥で何かが崩れ落ちた。
――生きてる。生きてる……。
しかし、次の瞬間。
三島の視線は、周囲を素早く彷徨わせた。
人影はない。カメラも、スマホを構える誰かもいない。
(このまま通報すれば……俺の立場は終わる。事務所も、野望も、すべて崩れる)
呼吸が荒くなる。胸が締めつけられる。
混乱と恐怖が入り混じり、頭の中で言葉が千々に散っていく。
三島は強く歯を食いしばり、蓮の身体を抱え上げた。
濡れた髪が三島の頬をかすめ、血の匂いが鼻をつく。
「……大丈夫だ……助けてやる……」
自分に言い聞かせるように呟くと、
彼は誰もいない夜の闇へと歩き出した。


