「宅麻くんー! こっち向いてー!」
「ありがとうっ、愛してるよー!」
歓声が飛び交う。
ライトに照らされたステージの上で、宅麻大地は完璧な笑顔を浮かべていた。
柔らかく整えられた明るいブラウンの髪が、照明を受けて艶やかに光る。
白いシャツの襟元は汗でわずかに濡れ、その上に羽織ったジャケットが光を反射して眩しい。
彼は右手を高くあげて手を振り、左手では「大地」とデコられたボードを拾い上げて見せる。
チェキ撮影では、自然な角度で身を傾け、肩を寄せ、“自分だけを見ているような笑み”を向けた。
その仕草に、ファンたちの頬がいっせいに赤く染まる。
そのすべてが――完璧だった。
言葉遣いも、表情も、距離の詰め方も。
アイドルとして研ぎ澄まされた“最上の振る舞い”。
ステージ袖からその様子を見守っていた優香は、ただ圧倒されていた。
けれど、同時に――なぜだか胸がざわついていた。
(すごい……でも、あの笑顔……)
どこか、冷たい。
美しくて、優しくて、ファンの心を掴むはずのそれが、なぜか“自分の中を通り抜けていく”ように感じた。
それは、演技のような、あるいは義務のような――そんな、表面だけの光。
ステージ中央の大地は、胸の奥で小さく呟いていた。
(……これが、俺のやるべきこと……?)
(拍手も笑顔も……全部、俺じゃない誰かに向けられてる気がするのに……)
イベントが終わる頃には、大地の顔に疲れの色はなかった。
けれど、楽屋へ戻るとき、彼は一言も発さず、笑顔のまま静かに歩いていた。
優香は先に控室のドアを開けた。
大地がその後ろから入ってきた瞬間、彼女の足が止まる。
彼は、まっすぐ鏡の前に立ち、無言のまま、じっと自分の姿を見つめていた。
数秒の沈黙の後――
彼の表情が、ふっと崩れた。
貼りついていた笑顔が溶けるように消え、目からは光が抜け落ちた。
まるで、魂だけが置き去りにされたような顔だった。
(……誰、これ……)
優香は息を呑み、動けなかった。
それは“宅麻大地”ではなかった。
けれど、それが“黒瀬蓮”だとも、まだ彼女は知らない。
ただ一つ、確かにわかったのは――
その笑顔の奥に、どうしようもない孤独があるということだった。
「……お疲れさまでした」
ようやくの思いで、優香が声をかける。
「すごく……素敵でした。全部」
彼は、少しだけ目を細めた。
けれど、そこには笑みはなかった。
「……ありがとう」
その言葉が、なぜか遠くに聞こえた。
優香の胸に、またあの痛みが灯る。
(この人は、どこに“自分”を置いてきたんだろう)
笑うたびに、少しずつ何かを削っているような気がした。
誰のために笑っているのか、どこまでが演技で、どこからが本音なのか――
そんなことも、本人さえ忘れてしまっているように見えた。
(……知りたい)
優しさでも、憐れみでもない。
その時、優香の胸に芽生えたのは、ただ静かな“衝動”だった。
(本当の“あなた”を、知りたい)
彼が笑っていないことに、気づいてしまったから。
「ありがとうっ、愛してるよー!」
歓声が飛び交う。
ライトに照らされたステージの上で、宅麻大地は完璧な笑顔を浮かべていた。
柔らかく整えられた明るいブラウンの髪が、照明を受けて艶やかに光る。
白いシャツの襟元は汗でわずかに濡れ、その上に羽織ったジャケットが光を反射して眩しい。
彼は右手を高くあげて手を振り、左手では「大地」とデコられたボードを拾い上げて見せる。
チェキ撮影では、自然な角度で身を傾け、肩を寄せ、“自分だけを見ているような笑み”を向けた。
その仕草に、ファンたちの頬がいっせいに赤く染まる。
そのすべてが――完璧だった。
言葉遣いも、表情も、距離の詰め方も。
アイドルとして研ぎ澄まされた“最上の振る舞い”。
ステージ袖からその様子を見守っていた優香は、ただ圧倒されていた。
けれど、同時に――なぜだか胸がざわついていた。
(すごい……でも、あの笑顔……)
どこか、冷たい。
美しくて、優しくて、ファンの心を掴むはずのそれが、なぜか“自分の中を通り抜けていく”ように感じた。
それは、演技のような、あるいは義務のような――そんな、表面だけの光。
ステージ中央の大地は、胸の奥で小さく呟いていた。
(……これが、俺のやるべきこと……?)
(拍手も笑顔も……全部、俺じゃない誰かに向けられてる気がするのに……)
イベントが終わる頃には、大地の顔に疲れの色はなかった。
けれど、楽屋へ戻るとき、彼は一言も発さず、笑顔のまま静かに歩いていた。
優香は先に控室のドアを開けた。
大地がその後ろから入ってきた瞬間、彼女の足が止まる。
彼は、まっすぐ鏡の前に立ち、無言のまま、じっと自分の姿を見つめていた。
数秒の沈黙の後――
彼の表情が、ふっと崩れた。
貼りついていた笑顔が溶けるように消え、目からは光が抜け落ちた。
まるで、魂だけが置き去りにされたような顔だった。
(……誰、これ……)
優香は息を呑み、動けなかった。
それは“宅麻大地”ではなかった。
けれど、それが“黒瀬蓮”だとも、まだ彼女は知らない。
ただ一つ、確かにわかったのは――
その笑顔の奥に、どうしようもない孤独があるということだった。
「……お疲れさまでした」
ようやくの思いで、優香が声をかける。
「すごく……素敵でした。全部」
彼は、少しだけ目を細めた。
けれど、そこには笑みはなかった。
「……ありがとう」
その言葉が、なぜか遠くに聞こえた。
優香の胸に、またあの痛みが灯る。
(この人は、どこに“自分”を置いてきたんだろう)
笑うたびに、少しずつ何かを削っているような気がした。
誰のために笑っているのか、どこまでが演技で、どこからが本音なのか――
そんなことも、本人さえ忘れてしまっているように見えた。
(……知りたい)
優しさでも、憐れみでもない。
その時、優香の胸に芽生えたのは、ただ静かな“衝動”だった。
(本当の“あなた”を、知りたい)
彼が笑っていないことに、気づいてしまったから。


