「大変だったな⋯⋯あ」
 彼は私の目を覗き込み、
「目の色も、角度によっていろんな色に見える。いいなぁ」
「よくないよ。悪目立ちしたくないし」
「少なくとも、俺は素敵だと思うけどな」
 女子にそう言われたことはあれど、男子にそんなことを言われたのは初めてだった。
「衣さん⋯⋯って、一文字だから呼びにくいな。千鶴さんって呼んだら図々しい?」
「いいよ。別に、敬称略でも」
 そんな風に、私たちは親しくなっていった。

 我らが弱小吹奏楽部は、見事にみんなやる気がなかった。
 何かと出番が多いせいで、朝練は多かったものの、やる気のない部員が大半の為、おしゃべりばかり。
 ぼんやりと、音楽準備室の窓から校庭を見下ろしながら、
「見てよ。サッカー部の男子たち、笑える!みんなして、フッ!て、風で前髪上げてカッコつけて⋯⋯」
 登茂子が言い、見てみると、確かにそれは妙に滑稽で、一緒に笑い転げた。