独身最後の夜に

 誰も傷つかない恋などないと、大人になれば皆、当たり前のことだと割り切って生きてゆく。
 私は、初恋の人と幸せな結末を迎えたはずなのに、未だにこんなにも胸が痛む。

 両親は、自宅を売却して、他県の老人ホームに入ると言っており、小笠原に引っ越せば、もう、ここへ来る機会もなくなる。
 だから、どうしても、今夜ここへ来たかった。

 彼は、登茂子の恋心を今も知らないまま。
 親友の資格を失った私が勝手に伝えていいはずもなく、苦しむのは私一人でいい。
 明日になれば、笑顔で婚姻届を提出する。
 大好きな彼と幸せになります、なんて、登茂子にはとても言えやしないけれど。

 いつかは、この痛みも忘れてしまうのだろうか?
 忘れられたら、どんなにラクだろう。
 それでも、私は決して忘れたりしない。

 サヨナラ、登茂子。
 二度と会えなくても、あなたは私の大切な人だから⋯⋯。


The End