独身最後の夜に

 登茂子の赦しを待ち侘びた15の頃から、長い長い歳月が流れた。
 医者になった松岡くんは、小笠原の診療所へ行くことになり、婚約者の私も一緒に行く。

 独身最後の夜。
 明日、一緒に婚姻届を出しに行く約束をしている。
「いい夫婦の日なら、忘れっぽい千鶴も結婚記念日を忘れないだろうから」
 彼は、11月22日に入籍しようと言った。
 しかし、私にとって、その前日はもっと重要な日。

 冷たい夜風を受けながら、私はかつて彼と二人で来たS浜まで来た。
 もう、ここへ一人で来るのは何度目だろう。
 S浜の目の前にある墓地は、当然だが、こんな夜には誰も居ない。
 バイクを停め、シートの下からプリザーブドフラワーを取り出すと、私は墓地にお邪魔した。
「登茂子。毎年しつこく来て、迷惑だった?でも、これが最後になるから⋯⋯」
 花を墓石の前に置き、手を合わせた。
 閉じた瞳から、とめどなく涙が溢れる。