独身最後の夜に

 私は、血の気が引くのを感じた。
「どうして知ってるの⋯⋯?」
「あそこには、うちの本家と、先祖代々の墓があるの。あの日、法事で行ったんだけど、二人がすぐ目の前の海でいちゃついてるなんて、幻覚かと思った」
 もう、何の言い訳も出来やしない。
「ごめんなさい⋯⋯!」
「あり得ないわ。ほんの一瞬だって、千鶴と松岡くんのことを勘繰ったことはなかったのに」
「本当にごめん!実は、私もあれから彼のことを好きになってしまって⋯⋯」
「もう帰ってよ。平気で友達を裏切るような人の顔なんか見たくない」
 思い切り、目の前で玄関ドアを閉められた。

 登茂子は、去年の9月には、私と松岡くんのことを見て、全て知っていた。
 しかし、そんなことは一言も言わず、いつも通りに接してくれていたから、こちらは全く気付かなかった。
 9月からずっと、卒業と同時に縁を切ると決めていた⋯⋯?
「千鶴って、実はかなり鈍いね」