独身最後の夜に

 そのことで、私も油断していたのだろう。
 9月になり、本格的に受験勉強をしないといけないということもあり、私たちは中学最後のデートということで、県境にある穴場のような、誰もいない海へと出掛けた。
「あーあ。早く受験終わらないかなぁ」
 優等生なのに、そんなことをぼやく彼。
「松岡くん、志望校は余裕でしょ?」
 彼は、県内トップの高校を志望校にしており、模試もA判定。
 一方、勉強のできない私は高望みせず、商業高校へ行き、大学には行かず、役所勤務がいいな⋯⋯などと思っていた。
 二人きりで防波堤に腰掛けていたところ、さりげなく肩に手を回され、一瞬、体が強張った。
 普段は、誰にも悟られぬよう、手を繋ぐことすらしない私たち。
 地元から遠い場所ということもあり、互いに少しだけ大胆になって、帰りの電車でも、最寄り駅が近づくまで、ずっと手を繋いでいた。

 秋が深まる頃、ようやく部活も引退。