独身最後の夜に

 初めて“秘密の彼氏”ができた翌朝も、登茂子はいつも通り、私の家に迎えに来た。
 もうすぐ、春休みだというのに、気が重かった。
 いつも通り、実に他愛ない話をしていても、うまく笑えなかった。
「どうしたの?なんか元気ないけど」
「えっ!?ああ⋯⋯通信簿もらうの、今から気が重いなって」
「それはわかるけど、その為に内申稼ぎで不人気の園芸委員やったんじゃないの?」
 園芸委員⋯⋯つい、余計なことを言ってしまった。

 通信簿は、思ったほど悪くなかったが、大してよくはないという、まさにいつも通りの内容。
 それよりも、春休みも部活は毎日ある為、登茂子に彼とのことがバレてしまわないか、気が気でなかった。

 その一方で、松岡くんとはこっそり交換日記をしたり、人生初のデートで遠方まで行ってみたりと、彼と二人で過ごす時だけは、親友を裏切っているという事実も、完全に忘れていた。