「うん、わかってる。やだ、流石にそれを忘れるわけがないじゃない。じゃあ、明日の午後ね。おやすみ」
 彼からの電話を切ったあと、時計を見遣る。
 21時か⋯⋯。
 流石に、自宅にお邪魔するには遅いだろう。

 ジャケットを羽織り、冷蔵庫に引っ掛けてあるバイクのキーを取ると、
「こんな時間に何処に行くのよ。明日でしょ?婚姻届を出しに行くの」
 母に問われる。
「ちょっと、登茂子のところまで」
「こんな時間に?ご家族が迷惑するわよ」
「うん。挨拶したら、すぐ戻る」
「早くしなさいよ」


「寒っ⋯⋯!」
 一歩、外に出るや否や、思わず声が出てしまう。
 この町の11月は、もうすっかり冬だ。
 まだ初雪が降っていないのは、不幸中の幸いか。

 明日、私は初恋かつ最愛の人と結婚する。
「一途な純愛だねー!お互いに初恋同士なら、傷つく人もいないだろうし」
 人はそう言うけれど⋯⋯。