殻世界シャイア。それが、私を喚んだ世界の名前。
魔術王ダリウス。それが、私が喚ばれる原因となったひとの名前。
覚えているのは、視界に広がる空の色。
青い青い、吸い込まれるような、真っ青な空の色。
私は空に墜ちて、――意識を取り戻したときには、目の前にとてもうつくしい顔があった。
神が細部までこだわり抜いてつくったのだと言われても信じてしまいそうな、魂を奪われそうなほどうつくしい顔が。
「ああ、――なんて、罪深い……」
そのうつくしい顔の持ち主は、そっと私に向かって手を伸ばして、持ち上げた。
そうして引き寄せて、ほた、ほた、とその芸術品のようなまなじりから涙をこぼした。
落ちる雫さえ世界に祝福を受けたようにうつくしくきらめいていた。
そのうつくしい雫が、私の頬に当たって、はじける。そのささやかな衝撃が、これは現実だと告げていた。
衣服越しに伝わる熱が、私を抱え上げている人物がつくりものではないと伝えているようだった。
「おれの思いが、世界にきみを喚ばせた――喚ばせて、しまった。ああ、おれもこの世界も、なんて、罪深い……」
私の意識はまだぼんやりしていて、浅い思考しかできなかった。
ただ、泣かないでほしいな、と思った。
私は、その涙を止めるために喚ばれたはずだということだけがわかっていた。
それが最初。私が私として、この世界に存在することになった、最初のはなし。
その日、私は名前を亡くし、――そうして、『カーラ』となった。



