着圧のきついストッキングを爪先から引き抜いていると、

【お帰りなさい烈火(れっか)さん】

 と、システムのメッセージがポップアップされた。
 メッセージを反射的に閉じる。プラネットに所属するメンバーなら誰でも見れるプラネットのコミューンチャット欄には、22時からのモンスター討伐戦についてキングからの指示が書き込まれていた。

 部屋着代わりのTシャツに袖を通していると、着信音が鳴った。仲人役の堤さんの奥様からだった。「本日は……」というメッセージの冒頭がスマホのポップアップに表示されている。

 スマホの画面を開こうかどうか迷った挙句、テーブルの上に伏せて置いた。
 きっと勇者はキャンセルボタンを押したはず。

 さてと、と背伸びをして、椅子を引いた。
 ヘッドセットのイヤフォンジャックをパソコンへと差し込み、VC(ボイスチャット)の出力にチェックを入れる。途端に、ヘッドフォンから男の話し声が漏れ出た。

 話しているのはキングと、“ペテルギウス“の幹部である(げん)さんだ。 
 耳にワイヤレスイヤフォンを突っ込んで、彼らの会話の続きを聞きながら、バスルームでメイク落としだけピックアップする。リップをコットンで拭い取り、赤く染まったコットンをゴミ箱へ放り込んだ。メイクを半分ほど落としたところで、ポップがぴょんとモニターの中で跳ねた。

 【あなたの同居人の“ムギ”がログインしました】

 MPDOの住人同士で組む同居システム。 
 私の目に入れても痛くないほどに可愛がってる同居人。
 それが……彼女だ。

 烈火:「ムギちゃん! こんばんわ!」